第20章 6人旅(旅行編)
あれから1時間。
僕たちはテーブルの真ん中にあるお札を囲んで座ったまま、どうすることもできずにいた。
勿論、部屋の変更を願い出たが、あいにく今日は満室で変更できなかった。
事情が事情だから、旅館側が他の旅館を探してみると言ってくれたけど、さっきどこも満室だったと返答があった。
それから、あのお札を貼ってくれたお寺の住職にも連絡を取ってくれたそうだ。だけど、その住職は昨年亡くなったそうで、現住職には霊を見たり祓ったりできるほどの力はないらしい。
気休めのお祓いはできるそうだが、変に霊を怒らせるよりそっとしておく方が良いと言われたそうだ。
でも、そのままというわけにはいかないので現住職が知り合いの祓屋(はらいや)を紹介してくれたのだけれど、明日でないと来られないとのことだった。
沈黙の中、全員がお互いの顔色を伺い出す。
僕も同じくだ。
誰か言えよ!
帰ろうって!
できれば僕は言いたくない。
ビビってるって思われたくない!
でも、誰かがここで言わないと、最終の電車に乗れない!
トド松、お前言えよ!
と、みんなの視線がトド松に集まった時だった。
「怖いの?」
声のする方を見る。
十四松が口をあんぐりと開けた笑顔に、どこを見ているのか分からない眼差しでもう一度言う。
「ねぇ、兄さん達。怖いの?」
すると、おそ松兄さんが言ってしまう。
言ってはいけない一言を。
「な、何言ってんだよ十四松ぅ〜、怖いわけないだろ?」
バッキャローーーー!
帰れなくなってしまったことに、全員が変な汗を吐き出させる。
そんな中、十四松がお札を手に取り、それをおそ松兄さんに手渡した。
「それじゃあ、おそ松兄さんがこのお札貼り直してきてよ!」
「な、ななな何で?」
おそ松兄さんは顔から出るものすべてを出しながら震える声で問い返す。
「だって、お札を貼り直せば元どおりかもしれないでしょ?トド松もその方が安心だよね?」
その問いにトド松は何度も頷いた。
おそ松兄さんは、そんなトド松をギラリと睨みつけた後、十四松にお札を突き返した。
「俺、面倒臭い!自分で剥がしたんだから自分で貼り直せばいいだろ」
すると、十四松は両手を上にあげて首を横に振った。
「ヤダよ!僕、怖いよ!」
五人の背中に戦慄(せんりつ)が走った瞬間だった。