第19章 十四松の願い
イチの主人だと言うその人は名前も容姿もカラ松兄さんまんまだ。
ただ、歳は30歳くらいで豪邸に住むお金持ちというところは全く違うところだった。
イチが僕を拾ってくれたように、主人も当てもなく彷徨うイチを拾って屋敷の使用人として養ってくれたそうだ。
僕は、毎日イチからこの主人の話を聞いていた。
イチはいつも幸せそうに主人の事を話していた。
イチは訳あって人前では仮面を外せなかった。
故に学校に行けないイチに沢山の本を与えてくれる事。
気持ち悪がってイチを屋敷に置く事を良く思わない人達からいつもイチを守ってくれる事。
イチは震える手で主人に買い物のメモを広げてみせた。
「御主人様、こ、これは…?」
「ドッグフード、必要だろう?」
主人はそう言ってしゃがみこむと、イチのボザボサの髪を溶かすように撫でて優しく微笑んだ。
そして僕の頭にも手を伸ばして言う。
「そうだ、ドッグフードはもちろん、寝床も本人に好きなものを選んでもらうのもいいな?」
ほろほろと涙を流し始めたイチを主人は優しく抱き寄せて言う。
「毎日食事を残すから心配したんだぞ?なぜ早く言ってくれなかったんだ?」
「僕はお世話になっている身です、申し訳無くて言えません」
「俺は世話をしてるとは思っていない、寧ろ世話してもらっているんだ。そうじゃなくてもこんな可哀想な犬を放ってはおけないだろう?さあ、暗くなってしまう前に買い物をして帰ろう!」
こうして僕はイチと共に主人の屋敷でお世話になることになった。
暖かく広い寝床に広い庭。
庭仕事をしながら僕と遊んでくれるイチ。
ティータイムに庭を訪れる主人と共に歌を歌う時間。
全てが本当に幸せで、この時間がずっと続くと思っていた…