第19章 十四松の願い
その日の夜、僕は夢を見た。
とても広〜い花のたくさんある庭の中に僕は立っていて、珍しい蝶を見つけて僕はそれを追いかけた。
そしたらいつの間にか青いバラの生い茂る所まで来ていて、見覚えのある景色にハッとした。
そして僕はずーっとずーっと昔の友達の名前を呼んだんだ。
「イチーーー!」
僕は鼻を効かせ懐かしい匂いを辿り再び駆け出す。
青いバラのトンネルをくぐり終えると眩しい日差しが僕の目をしぱしぱさせた。
僕は目を擦ってから辺りに目を凝らす。
そこには小さな2人がけのガーデンテーブルがあって、鮮やかなブルーのネクタイを締めた男の人が腰掛けている。
そのすぐそばに仮面を付けた少年が立っていて、その少年は、僕を見るや否や顎をカタカタと震わせた。
それを穏やかな顔で見つめていたブルーのネクタイの男の人は少年の背をトントンと叩いた。
すると少年は持っていたティーポットをコトリとテーブルに置きゆっくりとこちらに歩いて来る。
「じゅ…十四松なの?」
「そうだよ、姿はだいぶ変わったけどわかってくれたんだね、イチ!」
イチは一松兄さんそっくりの少年で、僕が一松兄さんの弟として産まれる前に出会った少年だ。
その頃の僕は雑種の犬だった。
飼い主に捨てられて、彷徨っていた僕にイチがご飯を持って来てくれた。
イチは毎日決まった時間にメモの入った買い物かご片手に僕の居る路地裏にやって来てご飯をくれた。
イチのお腹は毎日ぐーぐーとなっていて、それが彼の食事のお裾分けだということはすぐに分かった。
イチが来てくれるようになって一ヶ月がたったある日のことだ。
いつものようにイチが僕のところにやって来た。
その日のご飯もいつも通りとても美味しくて夢中で食べていた。
その傍で買い物かごの中のメモに目を通すイチが「え?」と声をあげた。
どうしたのかと見上げるとイチの瞳が微かに揺れている。
この時僕は大切な友達の異変に頭がいっぱいで注意を怠っていたんだ。
僕とイチ以外の存在が視界に入るまで気づくことができなかった。
僕は慌ててイチの後ろに立ちはだかった影に全力で吠えた。
そこで慌ててイチも後ろを振り返った。
するとイチは、今度は僕の方に振り返ると僕を抱いて言う。
「十四松、この人には吠えちゃダメ!」
僕は吠えるのをやめてイチを見やるとイチは言う。
「この人は僕の主人なんだ」