第17章 初めてのクリスマス(クリスマス)
料理教室で貰ったレシピをトド松が鼻歌交じりにカバンにしまうのを見ながらコートに袖を通す。
「一松兄さん、今年は僕達でクリスマスディナー作ろうね!ケーキも♪」
「チョロ松兄さんにも手伝ってもらおうよ、八人分を二人でとか、俺、無理」
「そだね、まともにできそうなのもチョロ松兄さんくらいしかいないし・・・」
嘗てこんなにクリスマスにプラス思考な会話をしたことなんてあっただろうか?
思わず考え込んでしまって、返事が疎かになったのかトド松が不満げに俺の顔を覗き込んでいた。
「一松兄さん、聞いてる?」
「あ、ごめん、今までクリスマスって俺達にとって最悪なイベントでしか無かったから、急にこんなプラス思考な会話になって変な感じがして・・・」
すると、トド松も確かにと顎に手を当てて空を仰いだ。
「一松兄さんとカラ松兄さんが幸せそうだからかな?」
「は?」
俺は思わずマフラーを引き上げて熱くなった顔を半分隠した。
「だって、二人が幸せそうにしてるのに、僕達だけブルーな気持ちでクリスマス迎えるなんて悔しいじゃん?」
「あっそ・・・別に俺達・・・」
「カラ松兄さんはサプライズとか考えてると思うけどな?」
やっぱりそうなのかなと、曲がった背はそのままに俺も空を仰いだ。
「僕が一緒に考えてあげるから、カラ松兄さんのプレゼント探しに行こう?」
「う・・・ん・・・」
俺の返事を聞いて、トド松はぴょんぴょんと俺の前に歩み出て振り向くと、進行方向を背に歩きだした。
「カラ松兄さんが欲しがってるものとか会話に出てきた事は無いの?」
「無い・・・っていうか、プレゼントとかやっぱりいいよ・・・思いつかないし、渡すタイミングとかよくわからないし」
「何言ってんの!ぜ~~~~~~ったいに上げなきゃダメ!渡すのが恥ずかしなら、寝てる間に枕元に置いたらいいでしょ?」
俺の心配が一つ、あっさり解決してしまって、流石トド松だなと感心する。
どんな店に行こうかとかどういうものがいいだろうかとか、自分の事のようにトド松が必死で考えているのを俺は黙って聞いていた。
そのうち前方に我が家が見えてきた。
トド松は「余計な荷物置いてくるからここで待ってて」と駆け出す。
俺は地面に向かって吐き出される白い靄を目で追いながら、家までの道をゆっくりと歩いた。