第17章 初めてのクリスマス(クリスマス)
一松side
ソファーで丸まって眠っているカラ松を起こさないようにそっと布団を掛けてやる。
だらしなく口を開けているのを見て思わず顔が緩む。
時計を見ると時刻は午前10時。
昼過ぎまで起きる事は無いだろうなとその場に座り込んで息を吐いた。
だけど、こんな日々も今日で終わりだ。
カラ松が夜のコンビニでバイトすること約一か月。
目標金額をようやく稼ぎ終えたのだ。
来年兄弟で行く旅行の事を考えて、また口端が緩んだ。
カラ松がむにゃむにゃと寝返りを打って、落ちかけた布団をかぶせ直しながら「お疲れ様」と声をかけたところで襖が開いて、びくりと肩を揺らした。
「ちょ、びっくりするんだけど」
「何?一松兄さん、やましいことでもしてたの?」
にたにたといや~な笑みを浮かべてどこかへ行くのかコートを羽織り帽子をかぶるトド松に「べつに」と一言、視線を逸らした。
すると、目の前に薄紫のマフラーが投げられた。
俺は、どこか行く約束でもしていたかと考えて、カレンダーを見る。
あ、そうだ、今日は料理教室だっけ?
そう思ってマフラーに手を伸ばすと、俺のコートを手にトド松が俺の前に歩み寄って来た。
「一松兄さん、忘れてたでしょ?」
「うん」
もー、と頬を膨らますトド松からコートを受け取って羽織る。
外をみると少し先に見える木が激しく揺れていて、思わず身震いした。
同じく外を見ていたトド松が「うわ~」と声を上げて押し入れをがさがさとあさり始めた。
「一松兄さんもいるよね?」
「え?」
「手袋!」
「うん」
手渡された手袋をはめて、二、三度手を握って開くのを繰り返して馴染ませる。
「一松兄さん、行こう!」
俺はトド松が部屋を出たのを確認して、もう一度カラ松の布団を掛けなおして部屋を後にした。