第15章 スイートよりビター
二人でシャワーを浴び、退室の準備をする。
つなぎに着替え、袖をまくるカラ松に後ろから声をかけた。
「ねぇ、カラ松」
カラ松は体は鏡に向けたまま振り返った。
「ん?」
「昨日、なんて言って家を出てきたの?」
昨日、俺は勢いで何も言わずに家を出てきてしまっていた。
カラ松の出てき方によっては、俺達が帰らない事を心配しているかもしれない。
そんなことを考えていると、いつの間にか身支度を終えたカラ松が俺の顔を覗き込んでいた。
そして、俺の表情から察したのか、俺の頭をぽんぽんと撫でて言う。
「大丈夫だ、おそ松にそれとなく話しておいた」
と言う事は心配をかけている事はなさそうだ。
だけど、俺達だって恋愛経験は無いにしてもいい大人だ。
一晩返らない恋人同士がどうしているかなんて、答えは一つだ。
俺は、これから兄弟と顔を合わせなければならないのかと溜息を吐いた。
家に帰ると、十四松は野球に、トド松はチョロ松兄さんと買い物に行って居なかった。
だけど、部屋にはおそ松兄さんがいた。
一度は座り込んだものの、いつ何を聞かれるのかと気持ちが落ち着かなくて居心地は最悪だった。
俺はその場に居られなくなり、ソファーの上の棚から煮干しの袋を取り、部屋を出る為襖に向かった。
後ろで立ち上がろうと腰を上げたカラ松に鋭い視線を飛ばして襖を後ろ手に閉めた。
「ひっ!」と間抜けな声がした後、「おそま~つ!俺は何かしたか!?」と言う声が聞こえた。
察するに、おそ松兄さんに泣きついているんだろう。
ごめんね、カラ松。
一人でおそ松兄さんに色々詮索されてよ。
ほとぼりが冷めた頃に戻るから・・・
玄関先で二階の窓を見上げて心の中で言って、俺はゆっくりと路地裏に向かった。