第15章 スイートよりビター
暫くすると案の定、カラ松は俺を追ってきた。
カラ松の手には俺の上着が握られている。
にっこりと微笑むカラ松に涙が一気に押し寄せる。
俺は涙を見られないように向かってくるカラ松の胸に飛び込んだ。
「寒いだろ?風邪をひいてしまう、これを着ると良い」
正直、上着も着ずに出てきた事を後悔していた俺はカラ松の胸に顔を埋めたまま素直に袖を通した。
そして力いっぱいカラ松を抱きしめる。
どこにも行かないでと言う様に・・・
「い、一松?」と声を裏返すカラ松を無視して抑えきれなくなった胸の内を吐き出した。
「退院おめでと、カラ松ッ・・・カラ松カラ松カラ松、ずっとこうしたかった!ひっく、寂しくて死ぬかと思った!だからもう・・・入院とか許さないから!」
すると、カラ松も俺を抱きしめて首筋に顔を埋めて深呼吸した。
掛かる息がくすぐったくて身震いする。
「すまない、寂しい思いをさせて・・・一松のおめでとうが聞けて嬉しいぞ!」
そう言って俺の肩を掴んで引き剥すとにっこりと微笑んで俺の涙を優しく拭った。
「言うの遅くなってごめん」と気になっていたので一応謝る。
「ブラザー達の前では恥ずかしかったんだろう?ちゃんとわかっている」
カラ松は俺の頭をくしゃっと撫でた。
心地良くてつむった目を片方開けて答える。
「うん、それもだけど・・・感情を抑えきれる自信がなかった」
そう言うとまた、一粒零れて、カラ松に笑われた。
ムッとして、また涙を拭ってくれるカラ松の手を払いのけて気が付く。
こんなに寒いのにカラ松の腕は何も纏っていない。
カラ松は黒いシャツにつなぎに腕まくりスタイルだった。
「お前、寒くないの?」
「走って来たからな」
走って来たとは言っても、直ぐに体は冷やされるだろうに。
そう思って俺は溜息を一つ、回れ右をする。
「ん?どこに行くんだ一松?」
「どこって、家・・・寒いでしょ?」
俺はカラ松の腕を指差した。
「大丈夫だ、寒くない所に行くから。約束しただろ?」
「約束?」
俺は何か約束していたかと記憶を手繰って赤面した。
退院の際、ふわっとした言葉でだけどセックスする約束を交わしていた事を思い出した。
俺は再び方向転換してカラ松の袖を握る。
「どこに行くの?早く連れてってよ、寒い」
「オーケー、ハニー!」
カラ松は俺の手を取って街の方へ歩き出した。