第15章 スイートよりビター
夕食を終えた俺達は、カラ松の退院祝いを口実に飲んでいた。
母さんと父さんはとっくに寝室に向かっていて台所は真っ暗だ。
酔っぱらったトド松が俺の隣にやってきて、俺の肩に頭を預けて見上げてきた。
「誘ってんの?・・・フヒ」
鼻で笑うとトド松は「ホモじゃない」と頬を膨らませる。
「俺だって違うけど」とまた卑屈に笑った。
すると今度はトド松と反対側におそ松兄さんがしゃがみ込む。
「一松、飲んでるぅ~?」
「うん」
おそ松兄さんは俺の肩に腕を置いてしゃがみ込んだ体制のまま俺の顔を覗き込むように見てきた。
そして、酒が回ってとろーんとした目でじとーっと穴が開くほど見つめられる。
「何?」
「う~ん、一松さぁ、何でカラ松におめでとうって言ってあげないの?」
俺は視線を逸らす。
言えるわけない。
口にしたら涙止まらなくなりそうでとか口が裂けても言えない。
特におそ松兄さんには!
俺は明らかに鬱陶しいと言うような顔をして酒を含む。
それを楽しそうに見ていたおそ松兄さんはつまみを取って俺に渡してきた。
「おめでとうくらい言ってやらないと、流石のカラ松も愛想つかしちゃうよ?」
ドキッとしておそ松兄さんに視線を戻した瞬間、おそ松兄さんの頭が沈むのを見て何事かと視線を上げると、おそ松兄さんの後ろにカラ松が立っていて、おそ松兄さんのつむじに拳をメリ込ませていた。
「いってーなー!何すんだよカラ松!」
「一松を不安にさせる様な事を言うな!」
「じゃあ、カラ松は一松におめでとうって言ってもらえなくていいの?」
「そ、それは」
俺はカラ松の返事を聞くのが怖くなって、言葉を遮るように勢いよく立ち上がった。
言って欲しいと言われればおめでとうと言わないわけにはいかなくなるし、言われなくてもいいと言われるのは悲しいと思った。
突然立ち上がられて、寄りかかっていたトド松が振り落とされてしまって心配だったけど、チョロ松兄さんが大丈夫かと声を掛けたら大丈夫だと答えていたのでひとまず安心して襖を閉めた。
勢いで出てきてしまったのでどこに行くか決めていない。
二階に行こうかとも思ったけど、きっとカラ松が追って来ると思ったので俺は外に行くことにした。
今、カラ松と二人っきりになって、自分を押さえて居られる自信がなかった・・・