第15章 スイートよりビター
一松
一早く炬燵に座った十四松の左隣に俺は座り込んだ。
そうして、食事の時間になると兄弟が居間に集まり始める。
久しぶりに兄弟全員で囲む食卓には俺とトド松で作った山盛りの唐揚げとスープやポテトサラダなんかが並んでいる。
台所のテーブルでは父さんと母さんが向かい合って、同じく並ぶ夕飯を見つめ涙を溜めている。
そして、俺の左隣ではカラ松が滝のように涙を流して、二の腕部分の袖を濡らしている。
そんな3人に苦笑しながらトド松がパンパンと手を鳴らす。
「今日の主役は料理でも僕と一松兄さんでもないよ?」
その言葉にカラ松が袖でゴシゴシと目元を擦って顔を上げた。
「カラ松兄さん、退院おめでと〜!」
「おめで盗塁王!」
「おめでとう!」
「おめとー」
兄弟の祝福の声が飛び交ってシーンと静まる。
そして視線を感じて左側を見やるとカラ松が俺の祝福の言葉を待っているようだ。
「何?せっかく作ったのに冷めちゃうでしょ?早く食べなよ」
すると、おそ松兄さんが小声で「えーw」と俺を蔑むような目で見て来たけど視線を逸らした。
おめでとうって言ってやりたかったけど、その言葉を口にしたら今にも溢れそうなモノを止められる自信がなくて何も言えなかった。
カラ松は流石におめでとうくらい言って貰えると思っていたのか少し戸惑った様子で口を開く。
「え、ああ…ブラザーそしてダディーにマミー、心配掛けてすまなかった!見舞に来てくれてありがとう!一松とトド松は豪華な夕飯を作ってくれてありがとう!」
「どういたしまして」
「どういたしまして!さ、カラ松兄さんも皆も沢山食べてね、召し上がれ〜!」
食卓を手を合わせる音といただきますと言う声が包むと同時にカラ松が唐揚げに箸を伸ばす。
そして特大の唐揚げを口の中に放り込んだ。
肉が口の中を占領したのかもぐもぐと肉を噛み締めるたびに口端から肉汁が溢れ出て来ている。
「十四松、ティッシュ取って」
「あいあいさー」
俺は十四松が取ってくれたティッシュの箱から一枚ティッシュを引き出してカラ松の口端を拭ってやった。
「サンキュー、一松っ!」
「うまいから仕方ないけどもう少しゆっくり食べなよ」
俺は卑屈に笑って見せた。