第15章 スイートよりビター
すると、トド松は頬を膨らませた。
「何も企んでないです!僕はただ、兄さん達と旅行に行きたいだけ!お金は僕の給料があるでしょ?」
「トッティー格好いいーーーー!」
十四松は嬉しそうにトド松に頬ずりをする。
トド松も嬉しそうに十四松の頬ずりに答えている。
トド松は俺の親友の猫の治療費を稼ぐために深夜のコンビニでバイトをしていたんだけど、治療費を払ってからも続けていた。
「とはいってもそんなに沢山お金あるわけじゃないから移動はバスだし、お部屋も小さい部屋にぎゅうぎゅうで寝ることになると思うけど・・・それから、カラ松兄さん、あれだけ暴れられるんだからバイト代わってよね?あと一週間は働かないと旅行に行けても遊ぶお金が無いから」
カラ松は少し驚いた顔をしていた。
「トド松、まだバイトしていたのか?」
「うん、旅行に行きたかったからね。それで三割増しでお金返すっていう話はチャラにしてあげるから」
「本当か!?わかった、トド松となり代わろう!」
そう言ってトド松とカラ松と十四松はノリノリで歩き始めた。
カラ松がバイトでトド松になり代わる為にトド松の真似をしている。
それをトド松と十四松でああでもないこうでもないと楽しそうに言い合っていた。
俺は三人の数歩後ろを行きながら少し肩を落とした。
せっかくカラ松が帰って来たのに昼間は寝て深夜はバイトでカラ松が布団に居ないこの寂しい生活がまだしばらく続くのだ。
すっかり元気なようだけど、カラ松の体も心配だった。
そんな事を考えているとカラ松がこちらを振り返って駆け寄ってきた。
「お前、走って大丈夫なの?」
「ああ、傷ならしっかり塞がっているから大丈夫だ!だから、その・・・一松」
カラ松が頬を赤らめて俺の顔色を窺う様にする。
言わんとする事の想像がついて俺は赤くなった顔を見られない様に俯いて頷いた。
カラ松は嬉々とした声でありがとうと一言、俺の手を引いて先を行く十四松とトド松のもとに駆け出した。
俺の手を引くカラ松の背中を見つめて、改めてカラ松が無事だったことを嬉しく思った。
ドクロの付いたダッサイ背中だけど、俺にとっては道しるべみたいなもので、そこに無いと俺は前に進めない。
今直ぐにこの背中に抱き付きたいけど、弟達が見ているので俺はグッとその衝動を堪える為にカラ松の手を振りほどいた。
「走らせんなっクソ松!!」