第14章 熱に浮かされて(バイト編)【紅松】
今日の仕事は始まって間もないと言うのにこのコンディションで一人で乗り切らなくてはいけないと言う事実を突きつけられて重い体がさらに重たく感じて、あとどのくらいあるのだろうかと時計を確認した。
あと五時間はある。
僕は重い頭を手で支えて、店内を見渡す。
ガランとした店内。
いつも暖かい家族に囲まれて過ごす僕にとってこれほど心細いことはない。
風邪ひくと心細くなると言うけど、本当の事らしい。
僕は目を潤ませてレジに立ち尽くしていた。
深夜だけど、すぐ傍が一晩中ネオンを灯している様な通りな為、割と客は来る。
僕は直ぐに涙を袖で拭って精一杯笑顔を作った。
それからどの位経ったのか、僕の体力が限界を迎えようとしていた。
走ったわけでも激しい運動をしたわけでもないのに息が切れて、苦しくて口で呼吸してしまうからいつもはプルンと潤っている唇はカサカサで、自慢のぱっちりおめめも半分しか開かない。
お客さんが途絶えた所で僕はレジカウンターの裏で蹲った。
頭はぼーっとして支えきれずにカウンターに預けた。
こんな時に限って自動ドアが開く音がする。
だけど、僕の体は言う事を聞いてくれない。
コトン・・・
頭上から何かをカウンターに置く音がして、立たなくちゃと手をついて力を籠めるけど、体重を支えられる程の力が入らない。
(どうしよう・・・)
この状況も、明日必要な一松兄さんの猫の治療費も・・・
僕の頬をついに涙が伝った時だった。
痺れを切らしたのかすみませーんとお客さんが頭上で声を上げる。
「これくーださい♪」
明らかに僕に気づいてるその声に慌てて顔を上げると見覚えのある顔がにっと歯を見せて笑って、一つの箱を目の前で振って見せていた。
その箱には熱さましシートと書かれていて、僕は目を見開いた。
「お、おそ松兄さん・・・兄さ・・・ぁ」
僕の顔を見て眉を下げて笑ったおそ松兄さんがカウンターの中に入ってきて僕の頭を抱き寄せて撫でてくれた。
僕は一気に安心して、孤独だった心が満たされて行くのを感じた。
ビリビリと箱を開ける音がして、直ぐにおでこにヒンヤリと心地いいシートが貼り付けられた。
「トド松、大丈夫?」
優しい表情で僕を覗き込むおそ松兄さんに一度だけ頷いた。
「ったく、お兄ちゃんを欺けると思った?無理しちゃダメだよ~?しかし、何で一人なの?」
僕はそれに答えた。