第14章 熱に浮かされて(バイト編)【紅松】
仕事開始五分前。
僕は少しソワソワし始めていた。
というのもあの金髪の少年がまだ出勤してきていない。
まさかと思ってレジに向かう。
そこでもうすぐ今日の勤務を終えようとしている同僚のサポートをしながら自動ドアの方を気にしていた。
すると、仕事開始丁度、自動ドアが開き、彼が入ってきた。
僕はほっと胸を撫で下ろす。
働かないとはいえ、レジだけはやってくれていた。
レジをする彼が居なくなってはてんてこ舞いなんてもんじゃない。
というか、この体では無理だ。
そうこうしていると、夜勤のメンバーがお疲れ様でーすとコンビニを後にしていって、深夜勤の僕と金髪の彼だけになった。
溜息とともに僕は本格的に仕事を開始する。
店内を見て回り、乱れている所を陳列し直したり、レジ横のから揚げなんかを揚げたり、廃棄の弁当を回収したり。
そして、持っていた段ボールを置き、立ち上がった時だった。
ぐらりと体が大きくふらついて尻餅をついてしまった。
「いてて・・・」
立ち上がってみると頭が岩になったかのように重い事に気が付く。
頭だけじゃない。
足も胴体もずーんと重かった。
「やっば・・・熱、ぶり返した」
ウィーン・・・
自動ドアの開く音がして僕はいらっしゃいませと店内を覗く。
だけど、誰もいる様子はない。
誰も・・・あれ?
客どころかレジにいるはずの金髪の少年が居ない。
慌てて自動ドアから飛び出すと駐車場の先に見覚えのある金髪がぼんやりと見えた。
僕は流石に叫んだ。
「ちょっと!どこ行くの!?」
すると、金髪がくるりと振り返って言った。
「俺、たった今バイト辞めたから!じゃー!」
「はぁっ!?」
じゃーじゃないでしょ!?
僕はふらふらとする体を必死に起こし、店内の電話を手に取り、店長に連絡した。
店長は直ぐに代わりを探すと言って電話を切った。
それからしばらくして店の電話が鳴る。
でると、申し訳なさそうな声の店長だった。
心の中で冗談でしょ?と完全にあきらめムードだが一応、店長の声を聴く。
「ごめんね、松野君・・・代わりが見つからなくてねぇ、私も今遠出していて行けそうにないんだよ。すまないけど今日だけ乗り切ってくれないか?帰ってしまった子の分も給料は付けて明日、約束通り給料渡すから」
そう言われて、「はい」と返すしかなかった。