第14章 熱に浮かされて(バイト編)【紅松】
目を覚ましたら部屋の隅に一松が居た。
俺は寝起きでしばしばする目を擦って体を起こす。
「ん~、良く寝たぁ~!一松ぅ~、お帰り~」
「うん」
一松は遊びに来ている猫の顔の前で猫じゃらしを揺らしながら言った。
時計を見ると時刻はもう昼をまわっている。
その時俺の腹が音を立てた。
聞こえたのか一松が俺を見やる。
「そろそろ飯食おうぜ?」
「うん、トド松起こさなきゃ・・・」
そう言って一松は猫を窓から外へ出し、トド松のもとに向かった。
「トド松、お昼だよ、トド松」
「んん~~」
いつもなら一発で起きるトド松がさらにタオルケットを深く被って一松に背を向けた。
「珍しいね、トド松が起きないなんて」
一松も同じことを思っていたようで、そう漏らしながらもう一度トド松の肩をゆする。
しかし、トド松は起きない。
仕方なく俺が立ち上がる。
「トド松、昼ご飯お兄ちゃんと食べよ~?」
「・・・ごめん、いらない」
俺と一松は顔を見合わせた。
一松は眉を下げてこのまま寝かしてあげようという意味だろう、首を横に振って一階に向かった。
働く事、ましてや深夜勤務なんて俺達ニートには慣れない事だ。
疲れているんだろうと、俺もそっと寝かしてやることにして一松の後に続いた。