第14章 熱に浮かされて(バイト編)【紅松】
僕がバイトを始めたことを母さんと父さんは物凄く喜んだ。
必要なお金を稼いだら辞めてしまうんだけど・・・
そう思いながら心が少し痛んだ。
チョロ松兄さんは僕が働きだした初日からこうやってココアを作って僕を出迎えてくれている。
何もしてあげられないからと気遣ってくれるチョロ松兄さん。
だったら僕と働いてよと心の中で思った。
仕事の事を思い出して泣きそうになった。
俯いてココアを冷やす為に息を吹きかける、そうやって潤んだ瞳を見られないようにした。
「へっくしょん!・・・あっ!」
「ちょっと!トド松何やってんの!?」
その時くしゃみが出て、口元に持ってきていたマグカップからココアが吹き上げられてしまった。
チョロ松兄さんが慌てて台拭きを手に取り、僕の服や畳を拭いているとそこにおそ松兄さんと一松兄さんと十四松兄さんが下りてきた。
「朝から騒がしいな~、も~!」
「働いてきた僕に向かって・・・へ、へっくちゅっ!!」
十四松兄さんが鼻水を垂らす僕にティッシュを取ってくれた。
その横でおそ松兄さんが鼻と口を袖で覆ってこもった声で言った。
「何、風邪ぇ?移さないでよ~?」
「文句言うより心配とかしてよ!」
ほんと、おそ松兄さんは何もしないんだからとブツブツ文句を言っていると母さんが朝食を持ってくる。
チョロ松兄さんと一松兄さんも運ぶのを手伝いに台所へ立った。
僕はまだ眠いのかテーブルに突っ伏しているおそ松兄さんに冷たい視線を向けて言った。
「おそ松兄さんも運んだら?」
「俺はもう、足が棒だから無理~」
「はぁ~?寝起きで棒になるとかありえないでしょ!?」
だけど、おそ松兄さんは耳に指を突っ込んで僕に背を向けてテレビを見始めてしまった。
チョロ松兄さんにまた小言を言われるんだろうなと思って台所に目をやる。
だけど、台所から出てきたチョロ松兄さんは笑顔でおそ松兄さんの前にご飯を並べた。
「トド松のは今、母さんが持ってくるから待ってて」
「う、うん・・・」
珍しいなと不思議に思ったけど疲れているときに兄さん達の夫婦漫才なんて見ていたら余計疲れるだけだと思ってそれ以上気にすることもなかった。
食事を終えた僕は、早々に二階に上がり、ソファーに横になって足りない睡眠時間を補った。