第14章 熱に浮かされて(バイト編)【紅松】
トド松side
エスパーニャンコとカラ松兄さんが一松兄さんのストーカーに刺されて入院した。
その翌日にカラ松兄さんに借りは返すから動けない自分の代わりに働いて猫の治療費を稼いで欲しいと頼み込まれた。
いつもなら断ったんだけど、一松兄さんの為だし、電話越しだったけどカラ松兄さんがかなり必死なのが伝わってきて断れなかった。
僕はその日のうちに運よくコンビニのバイトに採用されて、翌日から深夜勤務することになった。
今日は四日目の勤務だ。
明日まで働けばいつ辞めたって構わない。
そう思うと気が楽だった。
僕が廃棄するお弁当を陳列棚から下げる作業を行う横で金髪の少年がぼーっとレジに立っている。
彼は僕とチョロ松兄さんと一緒にこのコンビニの面接を受けた。
そして、受かったのは僕とあの少年だった。
僕は陳列棚に視線を戻してため息をつく。
こんな事ならチョロ松兄さんと仕事した方がよかった。
そしたら楽できたのに・・・
少年は一日ああやってレジに立っているだけで何もしなかった。
深夜は客も少なくて人手は二人で十分だ。
だけど、これでは一人でやっているようなもので、一人でやるには仕事が多い。
僕は休む間もなく動いていた。
心の中では少年に対する不満が止むことは無いのに、ビビりな僕の口はそれを吐き出すことはしてくれなかった。
以前に勢いで開いたこの口が災いを呼んだことがあったしなと唇を噛み締めた。
あの時みたいにおそ松兄さんが居てくれたらなとぼそりと思ったことが口に出て慌てて口を塞ぐ。
何か言っているのが聞こえていたのかレジから鋭い視線が僕を貫いた。
僕は慌てて廃棄の弁当の入った籠を持ち上げ店の裏へ向かった。
外に出ると遠くの空が少し赤らんでいる。
もうすぐ帰れる・・・
「へっくしゅん!・・・ずずっ、寒っ!」
僕はゴミ箱に廃棄の弁当を放り込むと体をさすりながら店内に戻った。
すっかり明るくなって、朝食のいい匂いのする家に帰りつく。
この瞬間がたまらなく幸せだった。
「ただいま~」
この声に返事をくれる二つの声。
母さんとチョロ松兄さんだ。
「お帰りっ、希望の星!」
「母さん、その呼び方止めてよ~」
「トド松、お疲れ、寒かったでしょ?ココア入れたからご飯の前に飲めよ」
「ありがと、チョロ松兄さん」