第13章 働く六つ子(バイト編)
翌日、廊下を慌ただしく行きかうナースの足音で目が覚めた。
カーテンの閉まっている病室。
それなのにもう、周りがはっきり見えるほど明るい。
俺は思わず飛び起きた。
「やっべ!!」
もう、手遅れなのは分かっているが時計を見るため振り返った。
時刻は七時。
三時には起きて十四松と新聞配達に行かなければならなかったのにそのことすら俺は完全に忘れていた。
カラ松と一緒に居れることに気持ちが舞い上がってしまっていたのかもしれない・・・
入院中の友達の猫の事を思うと申し訳なくて、俺はうなだれた。
すると大きな手が俺の背を撫でた。
振り返ると、とっくに起きていたのか寝起きとは違うきりっとした顔をしたカラ松がこちらをにっこりと見つめていた。
「一松、慌てることはない」
そう言ってカラ松が枕元に置いてあったおそ松兄さんの置き土産のポケットティッシュを渡してくる。
俺は受け取ってどういう意味だろうかとティッシュを見つめた。
「これがどうかしたの?」
カラ松は無言で親指と人差し指を捻って見せる。
どうやらポケットティッシュの裏側に何かあるらしい。
俺は言われるがままひっくり返して、もう一度ポケットティッシュに視線を落として目を丸くした。
そこにはおそ松兄さんの物と思われる文字が書かれてある。
「心配せずにゆっくりしてきてよ・・・お兄ちゃんより・・・」
はっきりは書いていない。
でも、おそ松兄さんは気づいているんだろうなということが俺にはわかった。
いつもはっきりは言わない。
けど、兄弟の事一番よく見ていて陰で支えてくれる。
俺はなんだかんだであの人に一目置いて居る。
一緒に生まれてきた俺達だけど不思議なことに長男の器は優しい次男でもしっかり者の三男でもなく、あの長男にしか無い。
本当に頭が上がらない。
きっと、昨日、俺と十四松が新聞配達に出かけたのを知ってたんだろう。
そして、カラ松の見舞いに来る時点で俺を宿泊させることだけじゃなく、新聞配達を代行することも決めていたんだ。
ポケットティッシュを持つ手に力が入り、くしゃりと音を立てた。
「一松?」
俺はハッとして顔を上げる。
「なに?」
「そろそろ看護師が朝の診察に来るぞ」
俺はこっそり名残惜しみながらベッドから降りた。