第12章 何度でも(モブサイコ編)
いつのまにか寝てしまっていた俺は胸のぬくもりに目を覚ました。
視線を落とすと、そこには俺の服にしがみつくように眠る一松がいた。
俺は無意識に一松の額にキスをしそうになってハッとする。
『順番間違えんなよ!』
おそ松の台詞がよみがえる。
俺は頭をぶんぶんと振って自分に言い聞かせる。
目の前にいるのは恋人ではなく兄弟なのだと。
そうこうしていると一松も俺のぬくもりにパッと目を開けた。
「え!?・・・な、何?」
一松は全く状況が飲めないらしく必死に記憶を手繰っているようだった。
「目が覚めたか、ブラザー?」
その言葉に一松の表情が固まる。
いつもならマイハニーと甘く囁いていたから恋人でなくなったことを改めて自覚してショックを受けているんだろう。
俺も思わず眉を下げてしまう。
一松は慌てたようにベットから体を起こす。
俺はその腕を引いて再び一松を布団の中に引き戻した。
そして声を上げそうになる一松の口をもう片方の手で塞ぐ。
「静かにするんだ、ブラザー、消灯時間を過ぎている」
一松は舌打ちをして大人しくなる。
時計の針は9時を指していて俺達を照らすのは俺達のベッドのベッドライトだけだった。
「何なの?帰りたいんだけど・・・」
「すぐに済むから話を聞いてくれないか?」
静まり返った病棟では俺達のひそひそと話す声も大きく感じて自然と一松との距離が縮まる。
一松はさらに落ち着かない様子だったが俺は構わず続けた。
「一松、お前に辛い思いをさせた・・・すまなかった」
「それは俺の台詞でしょ」
「いいや、あれは薬の所為だ、仕方のないことだった。それに、俺が誘わなければこうはならなかっただろ?」
「・・・さぁ」
俺は一松の両肩を掴み視線を合わせた。
俺の真剣な顔に一松も目を離せずにいた。
「俺は優しくする事イコール格好いいと思ってた。だから自分の身を犠牲にした。これで格好いいし一松も楽にしてやれると思った。でもそれは俺の独りよがりだった。優しいお前の心を傷つけた。これでは一松にとっていい彼氏とは言えない。だから今までの俺は今日ここで死ぬんだ。そして俺は生まれ変わる・・・優しいお前を傷つけない男になる。自分の命も大切にするし、一松の身も心も大切にする・・・」