第10章 歪み(モブサイコ編)
俺の所為で猫が刺された。
そしてもしカラ松がここへ来れば・・・
ゴミくずが幸せになったからその代償だ。
俺はやるせなくなって天井をぼーっと見つめていた。
そこにも壁に貼りきれなくなったのか写真が貼ってある。
そこには微笑む俺が写っていた。
こんな風に笑うことがあっただろうか?
不思議に思ってその写真を良く見てみる。
その写真の俺は人形焼きを食べていたり、夕日を眺めて居たり、招き猫を見て居たり、から揚げを・・・食べさせてもらっている・・・誰に?
俺の口に伸びるから揚げを持つ手、その手の主はわかっている。
カラ松だ。
だけど、どの写真にも俺の隣にいるはずの彼はいない。
否、見えなくなっていた。
ズタズタになっていた。
天井の写真に釘付けになる俺に気づいた高木さんが天井を仰いで言う。
「これを見ながら眠るんだ」
「あんた、旅行にまでついてきてたの?」
俺は高木さんをにらみつける。
高木さんは気にせず続ける。
「眠るときに君の恋人を君の目の前でズタズタに切り裂いてやる時の事を考えるんだ・・・そうすれば君は俺の事だけを見てくれるだろ?」
「カラ松は関係ないだろ!それに、カラ松がいなくなったとしても俺はお前なんかのモノにはならない!」
俺は思わず声を荒げた。
それでも高木さんはやはり気にする様子もなく言う。
「関係なくないさ、一松君の体を彼は自由にしてきたんだ、僕だって嫉妬はするからねぇ・・・ねぇ、一松君、君は俺だけを見ていればいいんだよ?俺達の邪魔をする存在は全部俺が消してあげるから安心してよ」
ああ、この人に何を言っても無駄だ。
狂ってる。
俺は薬の所為か火照りだした体を忘れようとまた天井に視線を戻した。
(俺ってこんなに笑うようになってたんだ・・・)
幸せだった日々を思い出す。
初めてキスした日の事、体を重ねた日の事、散歩をして猫と遊んで、カラ松はひっかかれちゃったっけ、俺の作った唐揚げを食べてくれて、その後のリレーでのカラ松格好良かった・・・
カラ松・・・
俺の頬を伝う涙。
それを高木さんが拭った。
その手には白い布が握られていた。
高木さんはそれを鼻に押し当て夢中でにおいをかいでいる。
「すー、はー・・・君の匂いがたまらないよ」
俺は目を見開いた。
その手に握られていたのは・・・
俺の下着だった。