第10章 歪み(モブサイコ編)
俺はナイフを背に当てられたまま高木さんの家まで連れてこられた。
カーテンが閉まっているのかリビングに続く廊下は真っ暗だ。
「ねぇ、俺の友達に何したの?」
「ん?病院に連れて行ったんだろう?聞かなかったかい?」
「・・・・・・・・・・・・」
「僕が刺したんだよ?」
俺はカッとなって高木さんがナイフを持っていることも忘れて掴みかかった。
「何でそんな事!!」
「簡単な事さ、あの猫が邪魔だったんだよ?君の愛情を一身に受けれるあの猫が・・・どうしようもなく・・・どうしようもなくどうしようもなく・・・どうしようもなくどうしようもなくどうしようもなくどうしようもなくどうしようもなくどうしようもなくどうしようもなくどうしようもなくどうしようもなくどうしようもなくどうしようもなくどうしようもなく」
俺の中の何かが警鐘を鳴らす。
この人はヤバイ!!
俺は刺されるの覚悟で背を向け走り、玄関に手をかけたけど物凄い力でパーカーを引っ張られて廊下に投げ出された。
「げほっげほっ!!」
玄関への道は閉ざされた。
狭い廊下よりも広けた部屋の方が逃げやすい、そう思った俺はリビングに逃げ込んだ。
薄暗い部屋の中、ゆっくりと廊下を歩いてくる音と呪文のような声が近づいてくるのがわかる。
「どうしようもなくどうしようもなくどうしようもなく」
カチャリ・・・
扉が開き
「どうしようもなくどうしようもなくどうしようもなく」
カチッ
電気がつけられた。
「邪魔だったんだよ」
呪文が終わる。
そこで俺はこいつの目的を知る。
心臓を鷲掴みにされたように息が止まって開いた口が塞がらない。
暗い色の壁だと思っていた壁は白かった。
でもその白はほとんど見えていない。
壁一面を覆う写真・・・俺の姿。
「何・・・これ・・・」
警鐘が激しくなる。
耳が痛くなる錯覚を覚えるほどガンガンと鳴る。
俺は刺されてでもここへくるべきではなかったのだ。
こいつの目的は・・・
「君は俺のモノだよ、一松君?」
「勝手・・・言わないでよ」
すると高木さんの表情が一変した。
それまでにっこりと微笑みを張り付けていた顔から表情が剥がれ落ちる。
「それはどういう意味かな?・・・君には既に飼主でもいるのかい?」
体が強張って動けなくなった俺は高木さんに押し倒されてしまった。