第10章 歪み(モブサイコ編)
一松side
目を覚ますと部屋には俺一人だった。
そういや今日はまだ路地裏に行っていなかったなと思い棚の上から猫の餌を取り、ポケットに突っ込んで一階に降りた。
玄関に向かうとカラ松とおそ松兄さんとトド松の靴があった。
誰もいないと思っていたけどいたんだな・・・
行ってきますと声をかけて行こうかと思ったけど今は人と話す気にはなれないと思いそのまま出かけることにした。
路地裏に来るとゴミ箱の陰から姿を現す猫達が今日は来ない。
俺が来るのが遅かったから自分たちで餌を探しに行ってしまったのかもしれない。
そう思いながらその場に座り込もうとした時だった。
「一松君っ!」
誰かに声をかけられた。
路地裏の入り口に目を向けるけど逆光で顔が見えない。
「誰?」
「俺だよ、高木」
距離を残り2メートルというところまで詰められてようやく高木さんの顔が見えた。
「こんなところで何しているんだい?」
「猫に餌をやりに・・・高木さんは?」
「僕のアパートすぐそこだろ?一松君がここに入っていくのが見えたんだよ」
にゃぁ~~~
その時後ろから鳴き声がして振り返ると3匹の猫がやってきて俺の脚にすり寄ってきた。
「お帰り・・・遅くなってごめんね?」
そう言って俺は持ってきていた猫缶を一つと煮干しを一握りずつ並べてやった。
既にどこかで何か食べてきたのか3匹はそれで満足したようで俺にじゃれてくる。
俺は3匹をかわるがわる撫でてやった。
すると高木さんが俺の背後から俺の手を握ってきた。
「君にはこんな風にしてあげる友達がまだいたんだね・・・」
「へ?」
「あの一匹でいいと思ってたのに・・・この町の野良猫全部殺らなきゃダメなのかなぁ?」
俺はとっさに手を振りほどいて距離を取った。
「ねぇ、それ・・・どういう事?」
「詳しいことは後でゆっくり聞かせてあげるから・・・一緒に来てもらおうか?」
にっこりと微笑む高木さんはポケットからナイフを取り出し、鋭く光る刃を舌で舐めた。
猫は何かを感じ取ったのかどこかへ走り去る。
(うん、それでいい・・・)
俺は猫達を見送り安堵のため息を吐いて、再び高木さんに目をやる。
ナイフを向けられているにもかかわらず俺は結構冷静だった。
カラ松が高木さんを妙に警戒していた事を思い出してお前が正解だったよと心の中で笑った。