第10章 歪み(モブサイコ編)
「人との距離感なんて人それぞれだってことを念頭に置いて聞けよ?」
「ああ、わかった」
「トド松」
おそ松はトド松に話してやれと顎をしゃくった。
「運動会の綱引きの時なんだけど・・・」
トド松曰く、綱引きでトド松の後ろにいた高木はトド松が後ろに倒れそうになったのを支えるだけでなく、更にトド松を胸の中に収め、包み込むようにしてきたという内容だった。
「それで、おそ松はそれを黙ってみていたのか!?」
「んなわけないっしょ!?ガキじゃねぇんだっつって離れさせた」
「思い出すだけで背筋が凍るんですけど~」
「すまない、俺の我儘で嫌なことを思い出させた・・・」
「ううん、僕さ・・・」
トド松は何か言おうとしたけど迷って口をつぐんでしまった。
「トド松、この際思ってることは全部言っちゃえよ?お兄ちゃん達信用なんないか?」
「えっと・・・僕、一松兄さんが心配なんだ」
俺とおそ松は顔を見合わせた。
「それはどういうことなのか教えてくれないか?」
「運動会で一松兄さんが騎馬から落ちた時お姫様抱っこまでしたでしょ?今日は執拗に一松兄さんにベタベタ触ってた・・・他にも今思えば腑に落ちないことが多くない?何でいつも僕と一松兄さんだけ見分けがつくの?だったら他の兄弟・・・十四松兄さんとかわかりやすそうだけど?一番気になるのはさ、騎馬から落ちた時、あの位置からよく一松兄さんを助けられたと思わない?あの速さはまるで・・・
落ちるのわかってたみたいだった」
俺は脳天を何かに射抜かれたような感覚を受けた。
息をするのも忘れてあの時の事を思い出す。
高木の腕の高さが急に上がり、そして一松はバランスを崩して落ちた。
しかし、一松は運動会の打ち合わせの帰りに言っていた・・・
「確かに練習の時に高田の腕がケツを押し上げてくるから痛かったと言っていたが、あれは身長差故に・・・」
「僕にはそんなに身長差があるようには見えなかったけど?」
トド松の冷たい声が場を凍らせた。
俺は言葉が出ない。
「っていうかさ、騎馬戦で土台の人の身長をある程度合わせるっていうのは基本じゃないのかな?」
ガラガラ
その時、玄関を開ける音がした。
お帰りと言ってみたが返事がない。
俺とおそ松がきょとんとする中トド松が立ち上がり襖をあけ放ち二階に向かって叫んだ。
「一松兄さん!?」