第10章 歪み(モブサイコ編)
猫の治療が終わるころには十四松のお陰で一松も正気を取り戻していた。
袖を引かれて振り返ると一松が小声で礼を言ってきた。
俺は一松の頭を撫でてやる。
「あいつ、大丈夫かな?」
「ノープログレムだぞ、一松!早くに発見してくれた十四松と迅速にこの病院を見つけて案内してくれたトド松に礼を言っておけよ?」
すると一松は弟二人に改めて向き直って短く礼を言って頭を下げた。
十四松もトド松もにこにこ嬉しそうだった。
猫は一週間入院することになった。
すると一松がそわそわし始める。
きっと費用の事を気にしているのだろうと思い俺は一松の頭をぽんぽんと撫でてやって振り向いた瞳に大丈夫だと微笑みかけた。
治療費は退院の際入院費とともに払うことにして俺達は病院を後にした。
病院からの帰り道、前を歩いていたトド松が突然立ち止まってトド松の後頭部に顔面からぶつかった俺は鼻を押さえた。
「あいたっ!・・・すまないトド松、しかし急に止まらないでくれないか?」
振り向きも、返事もせずにトド松は前方にくぎづけになっていた。
俺は何だろうかとトド松の視線の先を見やった。
「やあ、一松君とトド松君と・・・」
そこにいたのはあの高木だった。
「ごめん、二人は見分けがつくんだけどあとの二人は・・・」
「僕、五男十四松!」
はいはいっ!と十四松が手を上げて言う。
俺もカラ松だと短く返した。
心を沈めるのでいっぱいいっぱいでこれが精いっぱいだった。
高木は一松の服を見て慌てた様子で一松に駆け寄ってきた。
高木の手が一松の服に、肩にと触れる。
「一松君っ、この血はどうしたの!?怪我でもしたのかい!?」
「あ、これ俺の血じゃないから大丈夫」
「ケガした猫をね、病院に運んだ帰りなんだ~」
「君たち猫飼ってるの?」
「違うよ~、野良猫なんだけど一松兄さんの親友なんだ~」
十四松が説明する。
そんなの耳に入ってこなかった。
どうやら俺は相変わらずこの高木という男に理由もなく敵意を抱いている。
一松に触れるなと叫んでやりたくて震える手にグッと力を込めて耐える。
一松に触れるあいつの手を見ないようにと視線を上げた。
そこでトド松の顔が目に入る。
トド松は青い顔をして高木の手に釘付けになっていた。