第10章 歪み(モブサイコ編)
カラ松side
一松は真っ青な顔をしてこちらの呼びかけに一切反応しなかった。
俺と十四松は見合わせた。
十四松は静かに首を横に振った。
きっと十四松も考えていることは同じだろう。
一松はあの日の事を思い出してしまっている。
そうなるとしばらく正気に戻ることはないだろう。
俺は猫を一松から受け取ろうとしたが、一松がそれを許さない。
呼吸を荒くして猫を抱きしめ、震えていた。
俺はこのままでは間に合わないと思い、一松ごと抱きかかえトド松を呼ぶ。
「トド松っ!近くの動物病院を今すぐ探してくれ!」
スマホを片手に何事かと出てきたトド松もすぐに察したようで慌てて靴を履いて俺とともに家を飛び出した。
十四松は後から行くと俺達を家の前で見送った。
動物病院に付くと一松の手から獣医が無理やり猫を引きはがし、治療室に連れていかれた。
そのうち看護師が一人出てきた。
「運び込まれたのが早かったので何とか一命はとりとめそうですが・・・」
看護師の表情が曇る。
何だろうかとトド松と顔を見合わせる。
看護師は蹲る一松を窺った後俺達を手招きした。
「一松兄さんには僕がついとくからカラ松兄さん行って」
「ああ、頼むぞトド松」
看護師は待合室の隅まで歩いて俺に振り返った。
そして言いにくいのですがと小声で話し始める。
「猫ちゃんに虐待をしているということはありませんか?」
「はっ!?」
「えっと、ごめんなさい、何が起きたのか詳しい話を聞かせてもらえませんか?」
俺は虐待とはどういうことだと思いながら今朝の事や、あの猫は野良で一松が面倒を見ている事なんかをを話した。
「そうだったんですね、疑ってしまって申し訳ありません。あの、非常に残念な話なんですが・・・」
ゆっくりと紡ぎだされた言葉に俺は言葉お失うことになった。
「猫ちゃんの傷を見る限り、刃物で刺されたとしか思えないんです」
一松の心を殺したあの日の事件が蘇える。
気が付くと、傍に私服に着替えた十四松が立っていた。
「カラ松兄さん、一松兄さんには・・・」
「あぁ、今は黙っておこう」
心底悲しそうな顔をする弟の頭を撫でてやることしかできなかった。
すると十四松はいつもの満開の笑顔に戻っていて、一松に駆け寄って行った。