第8章 新境地
豪華な夕飯を食べ、そのまま二人きりの呑みの時間を過ごしている。
「こうやって二人きりで飲むのって何気に初めてじゃないか?」
「そーらねぇ」
間延びする返事をする一松はもうほろ酔いを通り越しているようだ。
上半身をテーブルに預け、両手で握ったグラスをころころと左右に転がしている。
「酔っている一松も可愛いな」
「本当にそう思っへる?」
微かに一松の瞳が揺れたのを俺は見逃さなかった。
「どうかしたのか一松?俺が何か不安になることでもしたか?」
一松は酒を一口含みグラスを眺めながら語り始めた。
「俺、悔しいの・・・いつも俺らけがドキドキさせられへる気がしへ」
こんな事、普段の一松が言うわけがないので酒に飲まれて本音をぶちまけようとしていると悟った。
「何故そう思うんだ?」
「俺はね、突然至近距離に来た時のカラ松、人形焼きのチョコとカスタード両方頼んれくれるカラ松、腹筋するカラ松、五十回目にキスしてくる気障なカラ松、カラ松の低く囁く声、ヤってる時に漏れるカラ松の声、サングラス無しで直接俺を見つめるカラ松の瞳、カラ松の微笑み全部に毎回ドキドキさせられへるのにカラ松はいつもニコニコ微笑んれて余裕れしょ?」
だから悔しいと言う一松を俺は思わず抱きしめた。
いつも俺にそんなにドキドキしてくれていたのかと思うとどうしようもなく嬉しく愛おしくなった。
一松の頭を自身の胸に押し付ける。
そして問うた。
「一松、聞こえるか?」
一松はいつも眠たそうに半分しか開かない瞳を大きく見開いているようだった。
その姿すら可愛くてたまらず、一松の柔らかい髪をくしゃくしゃとするように撫でながら言った。
「俺も、お前の言動一つひとつにいつもドキドキさせられているんだぜ?」
「れも、うんざりしゅることもあるれしょ?」
「一体一松のどこにうんざりするっていうんだ?」
俺は本当に思い当たらなくて一松の顔を覗き込んだ。
一松は上目遣いでぼそぼそと答える。
「ご飯を食べに行くといつも俺はメニューを指さすばっかれ注文するのはいつもカラ松、何を言っても悪態しかつけない。カラ松の口は俺を幸せにするのに俺の口はカラ松を傷つけることしかれきにゃい・・・」
しまいには一松の瞳から雫が零れ落ちた。
オイオイ、一松が泣き上戸!?
ここは半殺しにされるの覚悟で
ーーーカシャ