第8章 新境地
ここはいたるところに猫や招き猫を模した物が一杯あって好きだ。
昨日一番行きたかったパンケーキの店が目に入る。
だけど、お洒落な感じのカフェでスタヴァーにすら入れない俺達には敷居が高すぎると思いあきらめて他を探すことにして目をそらした・・・らカラ松と目が合った。
一瞬真顔で俺の瞳を覗き込んでいたけどすぐに困った様に微笑んで言う。
「一松、遠慮はするなと言っただろう?」
「何の事?」
「あの店のパンケーキが食べたいんじゃないのか?」
兄弟の中で一番鈍感なくせに何でこういうところは敏感なんだろうか・・・
だからいつも不意打ちくらって俺だけドキドキして・・・
なんか悔しい。
「でも、俺達にはハードル高くない?」
「大丈夫だ、俺が注文はしてやるから」
そう言ってカラ松は俺の手を引いて店に入った。
店の中はそんなに広くはないものの落ち着いた雰囲気でセンス良く飾り付けられてた。
そして六つあるテーブルの内3つが埋まってて2つは女子のグループ、一つはカップルだった。
「カラ松やっぱり出よう?俺達場違いだって!」
小声でそう言ったけど店員に案内されるがまま奥の席に座ることになった。
「一松、俺がどうしても一松に食べさせたいんだ、付き合ってくれるか?」
「・・・ったく、しゃーないなぁ」
カラ松はお冷を持ってきた店員にてきぱきと注文していた。
その姿を見てすごいなと思う。
俺にはとてもじゃないがあんなことできない。
いつも俺は店員が目の前にいるのにカラ松を呼んでメニューを指さして、決して自分の口から注文することはない。
こんな俺をカラ松は面倒だと思ってやいないかと少し心配になる。
「一松?どうしたんだ、ぼーっとしてどこか具合でも悪いのか!?」
「違うよ、パンケーキのこと考えてただけ」
「そうか、よかった」
神社での猫の事を話していたら待ち時間はあっという間で目の前に芸術的なパンケーキが現れた。
俺は完全に心奪われていた。
人の手で、こんなものが作れるのか・・・
猫型のパンケーキにドーム状の猫型生クリームと薄黄色の猫型バニラアイスにチョコアイス、それらにはチョコチップの瞳とチョコで描かれた鼻とヒゲがあって、チョコチップの瞳がこちらを見つめる・・・ハート形にカットされたイチゴとミント的な葉っぱが添えられていた。
フォークを持つ手が震えた。