第8章 新境地
カラ松side
一松が俺をちらちらと見ては顔を赤らめたりぽかんと口を開けてるのを見て嬉しく思う。
以前、お月見の日にトド松に選んでもらったニットジャケット。
一松は気に入ってくれたらしい。
流石俺の相棒、トド松!
帰ったら改めてお礼を言わなければと思った。
バスに三時間ほど揺られてようやく旅館に到着した。
疲れたのか俺の肩で眠る一松に目覚めのキスを落とす。
「ぅん・・・かりゃまちゅ?」
「フフ、お目覚めかマイリルキティ、到着したぞ?」
寝起きで活舌も意識もはっきりしない一松はとても可愛らしい。
俺の中心でマウンテンを築こうとしているマイサンを鎮める為目を閉じ、深呼吸をする。
そうこうしていると一松も意識がはっきりしたようで、荷物を持ち立ち上がった。
俺達は旅館の仲居さんに部屋へ案内されると直ぐに支度をし、下調べしておいたすぐ傍の観光地に足を運んだ。
そこにはこの辺を代表する老舗やお土産品店なんかが軒を連ねていて、情緒溢れる通りだった。
「ここで観光がてら昼飯としよう?」
「うん」
「何か食べたいものがあったら遠慮なく行ってくれ!」
嬉しそうに顔を綻ばせあたりを見回す一松の横でその姿を目に焼き付ける。
この愛おしい姿を独り占めできる日が来ようとは・・・
幸せに浸っていると一松が俺の袖を引く。
「あれ、食べたい!!」
一松が指さす先には人形焼きと書かれた看板があり、その看板には人形焼きの写真が貼られていた。
お地蔵様やゆるキャラの形をした物などがあって、一松は招き猫の形をした人形焼きを指さしている。
「粒あん、こしあん、チョコとカスタードがあるぞ?」
「ん~・・・」
一松は悩んでいたが俺は店主に招き猫の人形焼きを二つ頼んだ。
「チョコとカスタードだ、半分ずつ食べよう」
「何で・・・」
一松は、はわわわと口をぱくつかせ俺を見つめる。
「一松の好みは知り尽くしているからな!」
俺は自慢げに鼻息をフンっと出して見せる。
一松は短く礼を言って幸せそうに人形焼きにかぶりついた。
俺はこの姿を形に残そうとこっそり十四松とトド松に貰ったカメラを出した。
シャッター音に一松が慌てて顔を上げる。
「おまっ、カラ松!!」
「いいじゃないか、キュートな一松を形に残したかったんだ」
「俺なんか撮って・・・勿体な」
俺にとっては宝物だ。
俺は小さく呟いた。