第8章 新境地
俺達は旅館に直行するバスに揺られていた。
窓の外には青い海が広がっていて、通路側に座っているカラ松が俺の横に身を乗り出してくる。
「きれいだな?」
「うん」
声をかけられて思わず横を見ると至近距離にカラ松の顔があって不覚にも心臓が跳ねる。
カラ松はそんな事お構いなしに軽く触れるだけのキスをしてきた。
「なっ!クソ松、お前こんなとこで!」
思わず声を上げた俺の口にカラ松がシッと人差し指を当てる。
「皆スリーピングタイムだ・・・」
小声で言われて周りを見渡すと見える範囲の人間は皆寝ているようだ。
拒む言い訳をなくした俺は火照る顔を再び外に向ける。
そして、話を逸らすためずっと気になっていたことを聞いてみた。
「その服・・・」
「ん?」
カラ松はいつも来ている革ジャンと雰囲気の異なる紺のニットの上着を着ていた。
「変か?」
そんなつもりではなかったので慌てて否定する。
「ち、違うっ!」
つい必死になってしまって、はっとした時には遅くて、カラ松にクスリと笑われた。
墓穴を掘ってしまったと服の事に触れたことを後悔する。
再びそっぽを向いた俺にカラ松が嬉しそうにどうだろうかと上着の感想を催促してきた。
肩をつかまれ、無理やりカラ松の方を向かされて、改めていつもと違う大人な雰囲気のカラ松と向き合う事になる。
「・・・か、格好い、ぃ・・・よ?」
顔が発火した。