第8章 不器用な恋
「なのか…………?」
たつ兄が私を呼ぶ声がする……
でもその声は………
「こっちにおいで…なのか?」
そう私を呼ぶひろの声にかき消されて
引き寄せられるまま
ひろの腕に抱きしめられる私を
たつ兄は
ただ呆然としながら見つめてる……
そしてひろは私を抱きしめながら
そんなたつ兄に
「すいません…大倉さん。
さっき言うの忘れたんですけど
なのかは俺のものになったんで
別の人探してもらっていいですか(笑)?」
なんて笑顔を見せる……
「え……何……?
それどういう…意味…
なん…なのか………?」
そう言って私を見つめるたつ兄に
どう答えればいいのか解らなくて
黙っていると…
「朝約束したやろ…………?」
そう耳元で囁かれるひろの声に
ぎゅっと目を閉じ…
「ごめんなさい…たつ兄……
私もうたつ兄とは付き合えない……」
出来ることなら
絶対に言いたくなかったこの言葉を
たつ兄に伝える………
ひろの嬉しそうな顔………
たつ兄の驚いた顔………
その全部がモノクロに見える…………
でも……
ひろに手を引かれ
家の中に入り扉が閉まる瞬間
"なのか…"
たつ兄の唇が
私の名前の形に動くのを見たんだ………