第5章 戦う勇気 手放す勇気
髪を撫でられる感触に
ゆっくりと目を開けると
部屋の中は夕陽で赤く染まっていて
「裕兄ずっとここに居てくれたの…?」
そう言って後ろを振り返ると
私を見つめるたつ兄の顔が見える……
「なんで……………?」
訳がわからなくて
急いで布団を頭までかぶると
「なのか………」
私を呼ぶたつ兄の声が聞こえる……
「裕兄が…たつ兄のこと呼んだの……?」
そう布団をかぶったまま問いかけると…
「うん…横山くんがすぐに来いって…
お前はご褒美なんやからって……」
なんて驚くべき答えが返ってくる。
「たつ兄が裕兄が言ってたご褒美……?
でもたつ兄は
私のこと嫌になったんでしょ?
だったらこれはご褒美なんかじゃない…」
顔を見るのが
名前を呼ばれることが
嬉しいのに苦しくて仕方ない……
やっとの思いで
諦める決心をしたのに
これが最善の方法なんだって
言い聞かせたのに…
なんで会いに来たりするのかな……?
苦しくて悲しくて
口を押さえてるのに
嗚咽がもれる……
「私は大丈夫だから…もう帰って…?」
泣いてることを知られたくなくて
そう必死に言葉を吐き出した瞬間…
頭までかぶった布団を
たつ兄は力任せに下ろして
「嫌………」
そう言って
顔をそらす私の顔を両手で挟んで
涙と鼻水でぐちゃぐちゃな私の唇に
キスをした………