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ブラック・リード (鉄血のオルフェンズ)

第2章 ゼロ・ニ


「バレット」
瞼を開くと、目の前にオルガがいた。けれどその顔は腫れて、いくぶん男前になっていた。
「わたし、寝てた…?」
「あぁ。わりぃな、起こして」
「いやいい…」
わたしは椅子の背もたれに身を沈めた。整備場の隅に作られた小さな医務室。心臓の調子が悪い時、ここに籠って目を閉じる。そうしているうちに、今日は眠ってしまったようだ。
「これ、外してたんだな」
オルガが机上の防弾ベストを指差して言う。普段、わたしが服の下に着ているものだ。頑丈な繊維を織り込んだそれは、性別を隠すのにとても役立つ。ベストの壁によって、他者とわたしは絶対に交わらない。他所は他所。うちはうち。誰も本当のわたしを知らず、触れることすらない。その隔離された関係が、日々の生活を守っている。それでもオルガは、わたしを知る数少ない一人だった。
「取って」
「おう。って重いなっ...一体何キロあるんだ?」
「三キロくらい。これでも軽くなった方で、昔は三倍あったらしいよ」
ベストを頭からすっぽり被り、脇のボタンを止めながら答える。
「お前タフだな…」
「だから言ったじゃん。柔じゃないって」
ベストの上にシャツを着て、さらに上着を羽織る。これがいつものスタイル。わたしは棚から救急セットを取り出し、椅子に座り直した。
「で?また派手にやられたね、顔みせて」
「話が早ぇ」
オルガも、丸椅子を引き寄せて座った。
「年下組に聞いたの」
オルガさんが、大人に殴られている―――医務室へ向かう途中、ライドに言われた台詞を思い出していた。大方、信号弾の腹いせだろう。ギャラルホルンが攻めてきた時、大人は子供を置いて逃げ出した。そのせいで、仲間が大勢死んだ。囮になるのは当然の報いだ。
「呼び出されてたなら、一声かけてくれればよかったのに…」
頬に湿布を貼りながらそうこぼすと、オルガは右目を閉じて、
「お前の顔にアザ作る訳にはいかねぇよ」
「身体はボロボロだけどね」
「ばーか」
そう言って、頭を撫でてくるオルガの顔は少し寂しそうだった。夢でみる先生の眼差しに似ている、と思った。
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