第3章 ゼロ・サン
「あー、菓子好きって言ってもガキの頃だからなぁ…。昔に食べたっきり…」
甘いものは脳にいいんだぞ。それが、父の口癖だった。今から10年くらい前のことだ。まだ父が生きていて、わたしが女の子だった頃の話。モビルスーツの職人だった彼は、設計に行き詰まると飴を舐めていた。そして必ず、わたしにもそれをくれるのだ。蜂蜜色のまるい宝石。口に入れると、あまずっぱい味がしたのを覚えている。
「懐かしいよ」
「きっとまた食べられます」
「そうっすよ!そのための鉄華団じゃないっすか!」
「「テッカダン?」」
わたしとヤマギが顔を見合わせたその時、スピーカーからサイレンの音がした。
「監視班から報告。ギャラルホルンのモビルスーツが一機、えー…赤い布を持ってこっちに向かってる…!」
「またギャラルホルンか。ヤマギ、グレイズの移動よろしく。俺はバルバトスをミカんとこに持っていくから」
「はい!」
グレイズの元へ走っていくヤマギの背中を、わたしは見送りつつ、
「ライド!後で「テッカダン」のこと教えろよ!」
「えー!まだ秘密だってオルガさんに言われてるのにー!」
え、オルガ?リフトでコックピットに上がり、シートに身を滑らせながら内心、首をかしげた。