第1章 ゼロ・ワン
「頭を打ったと聞いたが、無事だったんだな。よかった」
「ありがとう。そっちも元気そうだな。他のみんなは?」
そう答えると、チャドは眉間にシワを寄せ、
「…ダンジがやられた。お前が巻き込まれた爆発のあと、基地を守ろうとして...」
「…バカだな」わたしは小石を蹴飛ばし、
「焦るんじゃねぇって言ったろうが…」
ダンジは生きた環境に似合わず、一人の少年兵としては夢見がち、憧れが強すぎるきらいがある。俺も三日月さんみたいになりたい。そう言って、戦果をあげるためなら平気で危険に飛び込む手合いだった。
「本当にな」チャドはひしゃげたモビルワーカーを指差して、
「ちょうど、あの辺りだ」
回収作業の傍らで、シノが項垂れているのが見える。チャドがそこに向かったので、後を追った。
「嘘だろ…これがダンジ?」
「間違いない。焼け残ったのは、その阿瀬耶識のピアスだけだ」
チャドはそう説明して、複雑な表情でシノを見つめていた。わたしは一歩踏み出て、モビルスーツに?と聞いた。シノは肩を震わせながら頷き、ピアスの欠片を握りしめた。
「クッソ…!お前言ってたじゃねえか!死ぬときはでっけえオッパイに埋もれて死にてぇって…。オッパイはな、柔らけぇんだぞ…こんな硬いコックピットとは違うんだ。なぁ、ダンジ…返事しろよ…」
シノは唇を噛み殺しながら呻いた。チャドも思わず顔を背けたようだった。わたしは肌に爪を突き立てて、耐えた。そうやって、心の嵐が過ぎるのを待っていた。が、どうにも収まらず、そっとその場を離れて歩き出した。歩いて、演習場を通り抜け、バルバトスへ向かう。バルバトスはガス欠で、力尽きていた。基地を背に、両膝をガックリと付いている。白いナノラミネートアーマーも、激しく損傷している。その足元では、雪之丞が既に回収作業を始めていた。
「おぉ、生きてたか」
「運が良かったよ。三日月は?」
「こっちだ」
リフトに案内された。それを使ってコックピットに上がると、三日月がシートの中で気を失っていた。剥き出しの頚椎と阿瀬耶識のプラグが繋がったままになっている。このままリンクを切るのは危険なので、わたしは三日月が起きるのを待つことにした。
彼の顔を眺めながら思う。