第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
城の南側、二階にあるゾロの部屋は、予想外にもこざっぱりとしていた。
「・・・なんだよ?」
ドサリと落とされたベッドは、きちんと布団が直されている。
それだけでも意外だったのに見渡してみると、ドアの前に洗濯物が無造作に山積みされていることを除けば、ちゃんと片づけられた部屋だと言っていい。
というより、余計なものがない・・・といったところか。
「ゾロの部屋がきれいでびっくりしてる」
「ああ、あのゴースト女がうるせェからな」
少しでも散らかしたり、洗濯物を溜め込めば、ペローナが容赦なくドアをすり抜けて文句を言ってくる。
プライバシーも何もあったものではないが、サニー号に乗っていた時も遠慮なく男部屋のドアを開けてくるナミがいたし、プライバシーなど無い生活に慣れているゾロにとっては大したことではなかった。
「それよりお前、覚悟はできてるか?」
ゾロの一言で引き戻される現実。
かろうじて肘をついているから上半身を起こしていられるものの、ベッドの前に立って見下ろしてくるゾロから逃げられそうもない。
いつも据わった目をしているからどの程度興奮しているのか分からないが、牙を剥く猛獣のような威圧感すら漂わせていた。
「・・・疑問なんだけど、貴方はどうして私を抱きたがるの?」
ミホークの娘だから、という理由では納得できない。
ミホークと血が繋がっていれば、どんな女でも抱くのだろうか。
するとゾロは眉間にシワを寄せ、“何を言ってるんだ”とでも言いたげな顔でクレイオを見据えた。
「そりゃお前・・・すげェ腹が減っている時、目の前に握り飯があったら食いてェって思うだろ。それと一緒だ」
「・・・は?」
この男にとって、女を抱くことと、握り飯を食べることは同等なのか。
怒りを通り越して唖然としているクレイオに、ゾロは自分の例えが悪かったと思ったのか、後ろ頭を掻きながら“うーん”と唸った。
「じゃあ、アレだ。喉がすごく乾いている時、目の前に酒があったら」
「もういい」
どうせ、空腹も性欲も同じ煩悩、そう言いたいのだろう。
少しだけ期待した自分がバカだった。