第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「おい、何怯えてんだよ」
ゾロは自覚しているのだろうか。
“野望”という言葉を口にする時、彼はまるで飢えた狼のような瞳をしていることを。
「そんなことない」
「じゃあ逃げる必要ねェだろ」
「・・・・・・・・・・・・」
どこにも行かせないとばかりに手首を引っ張られ、前につんのめる形でゾロの右胸に額をぶつける。
そのせいで、肩の傷口から流れた血がこめかみについてしまった。
「ちょっと、何するの!」
「あーあ、血ィついちまったな」
でもゾロはどこか嬉しそうだ。
口の端を上げながら、クレイオの左目尻すぐそばについている自分の血液を見下ろしている。
その視線に、凍り付くような悪寒が走った。
だが、時すでに遅し。
「おい、場所を変えるぞ」
「・・・は?」
「ここじゃ誰か来るかもしんねェ。ペローナはともかく、ミホークには見られたくねェだろ、“お前”が」
見られる?
何を?
心当たりはあるものの、それを認めたくない。
「そんな顔してっから、お前を喰いたくなった」
ああ、油断していた・・・と後悔した。
ミホークに再び稽古をつけてもらうようになってから、ゾロはいつも疲れ切っていて、風呂に入って食事をしたらすぐに寝てしまっていた。
また、ミホークもゾロを置き去りにするように、一人で先に城に戻ってしまうから、帰り道が分からず森で迷ったまま・・・ということもあった。
だから、ここしばらくは二人きりになる事すら無かったというのに・・・