第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
“手合わせしてやろう。さて、お前はいつまでその口を叩いていられるか・・・おれを楽しませてみろ”
深夜0時を過ぎた森は、ほんの数十センチ先すら把握できないほどの暗闇。
だが不思議と、ミホークの構える剣はうっすらと光って見えた。
それはきっと、彼の放つ覇気がそうさせていたのだろう。
「クレイオはお前の娘なんだろ」
そう切り出したゾロに、ミホークは肯定も否定もしなかった。
ただ、僅かに彼を取り巻く空気が変わる。
「その質問に答える義務はない」
「ああ、それで構わねェさ。ただの好奇心だ」
肩をすくめながら笑うゾロに、僅かに不快感を顔に出すミホーク。
右手に持つ無銘の剣がピクリと動いた。
「好奇心・・・? 迷惑千万」
「安心しろよ、別にお前に向けた好奇心じゃねェ。おれはクレイオに興味がある」
今度は明らかな不快感。
普段は沈着冷静なミホークだが、その実、激情家であることは最近分かったこと。
そう見えないのは、彼を激昂させることができるほどの手練れが、この世にはそういないというだけだ。
おそらく、それができるのはシャンクスなど四皇クラスぐらいのものだろう。
ゾロは刀を咥えると、ミホークの間合いから一歩外に出た。
そもそも、彼の間合いに限界があるのかどうかすら分からないが、ある程度の距離を取っておかなければいけないと、本能がそう訴えていた。
「さっき貴様は言ったな。おれが何と言おうとクレイオを抱く、と」
「ああ、言った。文句でもあるのか?」
「勝手にするがいい。だが、貴様のその血生臭い欲望───」
彼女に触れることを赦されるまで、粉々に砕けなければよいがな。
月の無い夜に振り下ろされた剣。
最初の一太刀を辛うじて受けきったところまでは覚えている。
その直後、容赦なく胸をえぐるように左斜めに切り込んできたミホークの剣を払うため、左手に持つ三代鬼徹を握り直したところで、ゾロの記憶は途切れていた。