第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
ああ、聖母様。
どうすれば私はこの男を赦すことができるのでしょうか。
「お前とミホークのことは聞いた」
お願い、それ以上言わないで。
「諦めろ、お前はおれから逃げられねェよ」
お願い、それ以上顔を近づけないで。
永遠にも感じられる一秒。
猛獣の瞳が獲物を縛り付け、血の匂いが恐怖を煽る。
「ミホークはお前の───」
ゴツゴツの手が、憐れな獲物の頬を撫でた。
そこからチリチリとした熱が身体に広がっていくような錯覚を覚える。
「父親なんだろ」
心臓の脈打つ音をこんなにも大きく聞いたことはあっただろうか。
クレイオを見つめるゾロの瞳に憐れみなど微塵もない。
「おれが必ず倒すと決めた男と同じ血と目を持つ女・・・逃がすわけがねェ」
クレイオ・・・お前を初めて見た時、威圧感を覚えた。
それは恐怖に近い感情だったが、同時にものすごい高揚感でもあった。
「おれはお前を抱く。今は無理でも必ずな」
お前を見ていると、“飢え”を感じるんだよ。
こいつの肉を喰いたい、こいつの血を飲みたい。
自分の中の本能がそう訴えている。
「ミホークにも宣言しといたしな」
「・・・叩きのめされたくせに」
「うるせェ!! このままヤられてェか?!」
「それなら私も貴方を叩きのめすまで」
お願い、それ以上見つめないで。
その野獣の瞳に心奪われてしまいそうになるから。
睨みながら見上げると、ゾロはクレイオの両手首をソファーに押し付けたままニヤリと笑った。
「そいつは構わねェが、あまりおれを焦らすな。気が長ェ方じゃねェからよ」
ミホークが父親だと分かったから、クレイオに手を出すことを宣言した。
だが、彼に許しを請うつもりは毛頭ない。
クレイオの父親であること、その事実にただ敬意を払いたかった。
そのミホークに容赦なく打ち倒されたゾロは、クレイオの頬に手を滑らせると、食らいつくように唇を重ねた。