第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
クレイオが朝の祈りから戻ると、広間のロウソクの火が燃えていた。
陽が差し込まない城内は朝でも暗く、明かりがないと何もできないが、この城の住人達は皆、普段から起床が遅い。
そのため7時前からロウソクが灯っていることはほとんどなかった。
「おう、お前か」
しかし、広間を覗いてみると、そこに居たのはロロノア・ゾロ。
ソファーに座り、不機嫌そうにしながら腹に包帯を巻いている。
「・・・どうしたの」
「ミホークにやられた」
見れば、みぞおちから右脇腹にかけてザックリと切れている。
他にもところどころに刀傷が見て取れた。
「ミホークと戦ったの?」
「ああ。あの野郎、手加減しねェから、さっきまでそこでぶっ倒れてた」
「・・・・・・・・・・・・」
ミホークが剣を取ったのか。
人に刃を向けた時の彼の目を思い出し、クレイオの背筋が凍りつく。
覚えている中で一番怖かった記憶・・・彼はまさに悪魔だった。
「・・・ちくしょう、痛ェな」
ろくに止血もしないで包帯を巻こうとしているから、余計傷口が広がっている。
クレイオは溜息を吐くと、救急箱に入っているガーゼを手に取った。
「手をどけて。私がやってあげる」
「お、助かる」
意外にも素直に言う事を聞いて、身体をこちらに向けてくるゾロに思わず吹き出してしまう。
すると剣士は、“何笑ってやがる”とでも言いたげに眉間にシワを寄せた。
「それにしても派手にやられたものね」
よく見れば、肩、胸、腕にも裂傷がある。
刀の一振りというよりは、その衝撃でついた傷のようだ。
上半身裸のゾロは、文字通り鋼のような肉体をしている。
この身体にいとも簡単に傷を負わせるとは、“鷹の目”という剣豪の化け物じみた強さが伺えた。
「貴方、ミホークの足元にも及ばないのね」
「仕方ねェだろ。向こうは本気でキレてたからな」
「ミホークが・・・?」
腹の刀傷を消毒していた手が止まる。
ゾロは床に膝をついているクレイオを見下ろしながら、口の端を上げた。
「お前を抱いておれのものにするって、あいつに言った」
その瞬間、クレイオの表情が変わった。