第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
森の真ん中にポカリと空いた空間。
かつてはここに集落があったのだろうが、戦争によって瓦礫の山と化している。
もしかしたら多くの死体が転がっていたのかもしれない。
瓦礫の中心には、巨木を削って造った高さ数メートルの巨大な十字架が建てられていた。
「恵み溢れる聖母様・・・罪深い私達のために、今も、死を迎える時もお祈りください」
朝6時。
その十字架の前で跪くのは、一匹の迷える子羊。
起床してすぐに捧げる祈りは、物心ついた頃からの習慣だった。
ロザリオを手に持ち、珠を一つ一つ繰りながら薔薇の冠を編むように祈りの言葉を口にしていく。
それは亡き母の教えだった。
“クレイオ・・・人を愛するということは、その人を赦すということよ”
「ロザリオの祈り」を唱えている時、いつも隣には母がいるような気がした。
信心深く、愛に溢れた聖女。
そんな母のようになりたいと、幼い手にロザリオを持って一生懸命に覚えたこの祈りを欠かしたことはない。
「私達の罪をお赦しください・・・」
どうか私をお救いください、聖母様。
“腹が減ってたまらねェ”
私は悪魔の子です。
ほんの少しの誘惑で、私の心はいとも簡単に地獄へ堕ちてしまうのです。
“お前を喰ってみてェ”
私が望むのは、たった一つの愛を確かめること。
そのためにどんな罪でも赦す覚悟はできております。
“ただおれは今、お前を無性に喰いたい”
なのに、目の前に現れた彼の言動が、私の中に眠る悪魔を呼び起こしてしまう。
「聖母様・・・どうか私をお守りください」
ロロノア・ゾロ。
あの野獣のような目をした罪人ともども・・・
私達のためにお祈りください───