第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
月どころか、遠くで雷の鳴る不吉な夜。
シンと静まり返った城に、一つの靴音が響く。
広間の古時計が、0時を告げる鐘を鳴らした。
トントン。
城主の寝室のドアをノックする音。
もちろん、彼はまだ就寝していないだろう。
その気配を察してか、戸を叩いた男が口を開いた。
「おれだ、ミホーク・・・話がある」
すると、ドアがゆっくりと開いた。
「こんな夜更けにどうした、ロロノア」
驚いた様子は微塵もないミホーク。
白いブラウスに黒いズボンという、いつもの出で立ちでゾロを迎える。
「お前に一言、言っておきたいことがあって来た」
飢えた獣のような眼差しで師匠を見据え、口の端を挙げたゾロ。
先ほどミホークが言った“そのような目”が、きっとこれなのだろう。
「おれはいずれ必ず、お前を越える」
「ああ・・・その日が来ればの話だがな」
「それと、コソコソすんのはおれの性分じゃねェから、はっきりと言っておく」
ビリッと二人の間の空間に電気が走る。
ミホークの表情が僅かに変わった。
「クレイオは、おれがもらう」
おれは腹が減って仕方ねェんだ。
樽一杯の酒を飲んでもまだ、喉が潤いそうにない。
この飢えと渇きは、あの女を抱かないと満たされない。
その理由はお前が一番良く分かっているはずだ、ミホーク。
ルフィと出会うまで、おれはお前を倒すためだけに生きてきたのだから。
「お前が何て言おうと、おれはクレイオを抱くからな」
不敵に笑う弟子。
師匠はふと窓に目を向けた。
「喜べ、ロロノア。今宵は月が出ていない」
「・・・あ?」
首を傾げるゾロに背を向け、ミホークは壁にかけてあった剣を手に取った。
そしてゆっくりと振り返る。
「久しく稽古をつけていなかったが、よもや腕は鈍っていまいな?」
「・・・・・・・・・・・・」
それはただそこにあった、無銘の刀。
だがミホークがほんの少し、鞘から刃を出した瞬間、ものすごい圧力がゾロを襲う。
「手合わせしてやろう。さて、お前はいつまでその口を叩いていられるか・・・おれを楽しませてみろ」
クレイオと出会った時に感じたシャンクスの覇気の倍・・・いや、それ以上の殺気。
獲物を狩らんとする鷹の目が、ゾロに向けられていた。