第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
一歩、一歩と近づくにつれ、ゾロの静かな目がクレイオを縛っていく。
そして、ついに二人の間の距離がほとんど無くなると、ゾロは右手でクレイオの頬を包んだ。
「腹が減ってたまらねェ」
夕食を食べたばかりだというのに。
「ついでに、喉も乾いてしかたねェな」
酒も飲んだばかりだというのに、この飢えも乾きも満たされることはない。
自分はルフィのような大食漢ではないのに、クレイオを見ていると空腹を感じて仕方がない。
いや・・・これは錯覚だ。
「・・・!!」
ゾロは薄く笑いながらクレイオの身体をシンクに押し付け、抵抗の色を見せる瞳を見つめた。
煩悩五欲の一つが満たされないと、他の欲も刺激されるのだろうか。
彼女を目の前にすると湧き上がってくる色欲が満たされないから、睡眠欲と並んで人間の自然欲である飲食欲が強まっているのかもしれない。
「お前を喰ってみてェ」
おれの“匂い”をつけただけじゃ足りない。
歯型も残そうか。
柔らかい女の頬肉に爪を立てながら、舌なめずりをする。
こんな姿をサンジが見たら、怒り狂ってゾロの脳天に踵落としを見舞っただろう。
“レディに何てことしやがる!!!”と、そう言って。
だが、生憎にも全ての女の味方だと豪語する脳内常夏野郎はここにいない。
首筋に噛みつこうとすると、クレイオの胸元のロザリオが揺れた。
「ゾロ・・・貴方、私に興味があるの?」
それは驚くほど冷静な口調で。
チラリとクレイオの顔を見ると、金色の瞳がこちらを向いていた。
「ペローナにも同じことをしているの?」
「ゴースト女・・・? 冗談じゃねェ」
「じゃあ、ここには他に私しか女がいないから構うの?」
「さァ、それは分からねェな。ただおれは今、お前を無性に喰いたい」
すると、クレイオの口元に笑みが浮かんだ。
強張っていた身体からも力が抜ける。
そして、次の瞬間。
バキッ!!!
顔面を殴る音が厨房に大きく響いた。