第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「その手・・・邪魔なんだけど」
「なら、お前が振りほどいてみろよ」
二ヤリと口の端を上げたゾロに、再びクレイオの眉間にシワが寄る。
この男はいったい、何を考えているのだろう。
この数日間、ずっと彼の視線を感じてきた。
目が合えば逸らすことなくジッと見つめてくるのに、特に何かを言うわけでもない。
まるで獲物を狙う捕食者のごとく、一定の距離を保って様子を伺っているようだった。
クレイオはミホークを横目でチラリと見ると、ゾロの手を放そうと右手を大きく引いた。
そのせいでテーブルの上に置いてあったグラスが勢いよく倒れ、水が零れてしまう。
「え、なに?」
その音にビックリしたらしく、ペローナがフォークを咥えたままゾロとクレイオを見た。
幸いコップは割れていなかったが、ミホークも顔を上げている。
「ごめんなさい、ちょっと手が滑っただけ・・・布巾を持ってくる」
素知らぬ顔をしているゾロが腹立たしかったが、別に怪我をさせられたわけではないし、何かを言われたわけでもない。
なおもジッと見てくるゾロから目を逸らし、厨房の方に向かう。
「なんなの、あの人・・・」
流し台にかけてあった布巾を手に取った瞬間、ゾクリと背中に悪寒が走った。
「───そりゃ、おれのことか?」
「ゾロ・・・!」
開いたままのドアのところで、壁にもたれかかるようにしてこちらを見ている。
特に殺気など感じないのに、何故か足がすくむような感覚に陥った。
「貴方がテーブルを拭いてくれるの?」
「水を零したのはお前だろ。まァ、やれっていうなら拭いてやっても構わねェが」
ゾロはニヤリと笑うと、後ろ手にドアを閉めた。
「・・・じゃあ・・・何?」
「腹が減った」
コツンコツンと大理石の床に響く、ゾロの足音。
ピチャンと水道の蛇口から落ちた、水滴の音。
やけに耳に触った。