第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
“恋はいつでもハリケーン”
アホコックの言葉に共感したことは一度もないが、確かに思いもよらない所から湧き上がる感情はあるようだ。
ナミとロビンは、世間の基準で言えば相当な美人らしい。
だが、ゾロは彼女達のことを“仲間”と思いこそすれど、同じ船で寝食を共にしていても“女”である事を意識したことは無かった。
「・・・・・・・・・・・・」
世間の基準で言って、クレイオが美人かどうかは分からない。
美人とされようが、そうでなかろうが、そんなことなどどうでも良かった。
「・・・何、足りないの?」
自分に向けられた無視のしようがない視線に、クレイオは眉間にシワを寄せながらゾロを振り返った。
あの“マーキング”から数日。
いまだにゾロの行動の意味には気づいていなさそうだが、明らかに警戒している。
それも無理はなかった。
「足りないのなら、パンをもっと持ってくるけれど」
長い食卓テーブルの上席に座るミホーク、その反対側の端にゾロ、その向かいにペローナが席を取ってみんなで食べる夕食。
クレイオはゾロから離れた場所に座っていたものの、彼の視線を終始感じていた。
すでに完食しているのにも関わらず、席を立とうとせずに見つめてくるのは、量が足りなかったせいだと思ったらしい。
まだ自分は食事の途中だというのに立ち上がると、厨房からパンが入ったバスケットを持ってきた。
「スープも残っている。もし食べるなら───」
斜め後ろから皿の上にディナーロールを乗せてくれるクレイオの手を掴んだゾロ。
まるで“そこから動くな”と言いたげだ。
「・・・・・・・・・・・・」
ミホークは新聞を広げながらワインを飲んでいる。
ペローナはデザートのアップルパイに夢中だ。
「・・・この手は何?」
「別に」
特に理由がない割には、手を離す気はないようだ。
他の二人に気づかれたくないのか、クレイオは声を潜めて身体を強張らせた。