第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
溜まった欲情を解放したゾロが城に戻ると、ちょうどクレイオが洗濯物を取り込んでいる所だった。
「おかえり、ゾロ。今日は夕暮れ前に帰ってこれたじゃない」
いつもと変わらない表情をしているが、あの後、ミホークとはどうなったのだろうか。
「・・・・・・・・・・・・」
ゾロの肌着やペローナの服が入っているカゴとは別に、ミホークのシャツだけが入っているカゴ。
ただそれだけのことが、無性に気に入らない。
「それ、なんでわざわざ分けてんだ」
「え?」
「ミホークの服」
クレイオは足元のカゴに目を落としてから、何故ゾロが不機嫌そうなのか分からないといった様子で眉間にシワを寄せた。
「ミホークのシャツは、アイロンをかけなければいけないものだから別にしてる」
「・・・・・・・・・・・・」
至極、もっともな返答。
それがさらにゾロの苛立ちを募らせる。
きっと今、どのような言葉を聞いていたとしても、神経を逆撫でするだけだったろう。
湿った風が、まだ干したままのタオルを靡かせた。
ヒラヒラと視界の先で揺れる白色がうざったい。
「・・・ゾロ、いったいどうしたの」
いくら普段から不愛想とはいえ、これだけ感情を隠さずにいたら、クレイオもさすがに警戒する。
ゾロから一歩離れると、相手の殺気を探ろうとしているのか緊張を高めた。
「・・・・・・・・・・・・」
ゾロは黙ったまま、もう一度ミホークのシャツだけが入ったカゴに目を向けた。
落ち着け。
こんな事で心乱されているようでは、あの男を越えることなどできない。
剣は心なり
心正からざれば
剣、また正しからず
“剣心一如”
未熟な心で、正しい剣の修行をすることはできない。
頭ではちゃんと理解しているんだ。
だが・・・
おれは今、あの男を越えるだけでは収まらなくなっている。
「ゾロ・・・」
クレイオはゾロの様子がおかしいと判断したのだろう。
右足だけを半歩下げ、相手に対して斜めになるよう半身を引いた。
脇を閉めた右手は胸の高さ、左手は刃から身を守れる位置に。
それは明らかに剣術を知っている者の構えだった。
その瞬間、ドクンとゾロの心臓が大きく鼓動する。