第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「あいつ・・・何してんだ」
ミホークは無防備な姿勢を取ったまま、動かない。
そしてクレイオもまた、そんなミホークのそばに佇んだままだ。
何か・・・嫌な感じがする。
そばの木からコウモリがバサバサと飛び立った。
もしかしたら、ゾロが無意識に殺気を垂れ流していたからかもしれない。
クレイオが一歩、ミホークに近づいた。
そのただならない雰囲気に、ゾロの大胸筋には運動でかいたものとは違う冷たい汗がにじむ。
「・・・・・・・・・・・・」
深く考えないようにしてきたが、最初からミホークとクレイオの間には、初対面とは思えない空気があったように思う。
別にどちらかがそういう態度を取っているというわけではない。
だけどクレイオが朝、当然のようにミホークが起きているかどうかを知っているのは、夜を共にしているからではないのか。
世界でその名を知らぬ者はいない大剣豪が、殺意がないからといって他人にあそこまで近い距離を許すものなのか。
ミホークとクレイオ・・・あの二人はいったい・・・?
ゾロが見つめているとは知らず、クレイオはミホークの隣に腰を下ろす。
そして目を閉じて腕を組んだままの大剣豪の肩に、そっと額を寄せた。
ドクンッ・・・
その光景はまさに、“特別”な関係にある男女のそれだ。
ドクンッ・・・
ゾロの心臓が大きな音を立てる。
───おれは今、見てはいけないものを見ているのではないだろうか。
そうであるならば、今すぐここを立ち去らなくてはならない。
だが、元来の無神経さがそうさせているのか、ゾロは二人を凝視したまま動くことができなかった。
ドクンッ・・・ドクンッ・・・
強さの象徴である、鷹。
その瞳を持つ男に寄り添う女もまた、猛禽類の圧倒的な空気を漂わせる。
その光景は、弱い人間が触れていいものではなかった。