第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「私にとって祈りは救いを求める行為じゃない。感謝を口にする行為なの」
「感謝・・・?」
「そう。例えば、貴方と出会えたことへの感謝」
サラッとすごい事を言うな、とゾロはギクリとした。
普通は恥ずかしくて口にできないような事だと思うのが、違うのだろうか。
「コンパニオンプランツのように、自分を強くしてくれる出会いがある。貴方との出会いがそれならば、私は神に感謝したい」
その言葉に、ゾロは息を飲んだ。
シャンクスの覇気に包まれていた時には気づかなかったが、この女には得体の知れない力がある。
そうでなければ、こうして向かい合わせに立っているだけで高揚に近い感情を覚えるわけがない。
「・・・そりゃなんだ。おれが野菜だって言いてェのか?」
「ふふふ、その髪の色だからぴったりかもね」
「おい!」
ゾロが睨むと、クレイオはふと寂しそうに緑の髪を見つめた。
「その珍しい緑色の髪、貴方の故郷では皆その色なの?」
「おれの故郷?」
子どもの頃に通っていた剣道道場の師匠コウシロウも、その娘くいなも、シモツキ村の人間はほとんどが黒髪をしていた。
「いや、おれだけだな」
「じゃあ、その色をしているせいで嫌な思いをしたことは?」
「別に」
アホコックが“マリモ”と罵ってくるが、腹が立つだけで嫌な思いをするというわけではない。
「髪の色より、腰に三本の刀を下げている時点で色々と言われているからな。だが、他人がどう思おうと関係ねェ」
「・・・・・・・・・・・・」
「おれはおれの道を貫くだけだ。他人の言葉なんぞに耳を貸してる暇はねェんだよ」
それはゾロにとっては至極当たり前の事だった。
だが、クレイオにとってその言葉は、簡単には口にできないもの。
「やっぱり・・・感謝するわ」
「・・・?」
「貴方との出会いは、きっと私を強くしてくれる」
神には祈らないという貴方。
神の御心によって生まれた私。
野菜とカモミールのように・・・
互いに無いものを補い、強くなる事ができたら・・・
“あの人”は私を認めてくれるかしら───
クレイオは辛うじて雲から透けて入る弱々しい朝日の下、ゾロを見つめながら微笑んだ。