第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
ゾロが挨拶代わりに和道一文字を抜き、空を斬るように一振りすると、それまで取り巻いていた覇気が消えていく。
そしてどこからともなく、“ああ、楽しみにしているぞ”と声が聞こえたような気がした。
「・・・おい、ゴースト女。腹が減った、何か食わせろ」
「はァ?! 私はお前の召使じゃねェぞ!」
「似たようなもんじゃねェか」
「いいか、お前に食わせる飯なんかねェんだよ!!」
ゾロはフンと鼻を鳴らしてから、憤慨しているペローナにお構いなしに食堂へ向かう。
先ほどからシチューの匂いがしている事には気づいていた。
「お前、それよりも包帯はどうした!! まだ傷が治ってねェから外すなって昨日あれほど言っただろ!」
「鍛錬の邪魔だから取った」
「お前、つくづく長生きできねェ男だな! それに汗臭ェ! いいか、飯食ったら風呂に入れ! そしたら包帯を巻き直すからな!」
プリプリと怒りながらシチューを用意するために厨房へ飛んでいったペローナに、ゾロは“面倒臭ェ女だ”と眉間にシワを寄せる。
そこでふと思い出した。
森で出会ったロザリオの女は、いったいどこへ行ったのだろう。
“いずれ分かる事じゃないかしら。それが神の思し召しならば”
同じタイミングでシャンクスがミホークを訪ねてきたのと、何か関係があるのかもしれない。
そういえば、さっきのペローナの言葉。
“女だけだったら、私だってここでお前なんかを待ってねェよ!!”
女“だけ”だったら、とは・・・
今日この城を訪ねてきたのはシャンクスの他にもいる、とも取れる。
「あの女はここにいる・・・」
この城は攻め入られた時に備えてか、とても入り組んだ造りをしている。
部屋数も膨大で、初めの頃などゾロは自分の寝室にたどり着くまで二日もかかった事があった。
あの時はペローナに憐れまれながら連れていってもらったが、それだけの城だ、どこかにいるという可能性は十分にある。
ゾロは静かに目を閉じた。
しかし、いくら意識を集中させても、あの覇気はもう感じられない。
「ちっ・・・まだ見聞色の覇気はほとんど使えねェしな・・・」
すると、食堂の方から“何やってんだ、シチューが冷めちまうだろうが!”というペローナの怒声が聞こえ、空腹もあってゾロはこれ以上考えることをやめた。