第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
戦争が絶えなかったというシッケアール王国だからか、その城は領土を広く見渡せる丘の上に建てられている。
おそらく森を通って侵入してくる敵軍をいち早く見つけるためなのだろう。
壁一面に取り付けられた大きな窓からは周辺を見渡すことができ、塔に登れば海の方まで目視することができる。
国が滅びた今でこそ怨霊の巣窟のような気味悪さがあるものの、誰が見ても美しい城砦。
まさにジュラキュール・ミホークに相応しい住処だった。
そこに弟子入りとかこつけて居候しているゾロが鍛錬を終え、城に戻った頃にはすでに太陽が西の空に沈んでいた。
「遅ェ!! お前、今までどこをほっつき歩いていたんだ!」
「あァ?」
正面の扉を開けた途端、居候仲間のペローナがさっそく金切り声をあげてくる。
ピンク色の長い髪をツインテールにしているゴーストプリンセスは、可愛い見た目の割に勝気で口うるさい。
ゾロは後ろ頭を掻きながら、面倒くさそうに溜息を吐いた。
「別にほっつき歩いていたわけじゃねェ。森から帰ってくんのに時間がかかっただけだ」
「森って、どんなにゆっくり歩いたって、15分もかかんねェぞ?!」
「知らねェよ。何故か道が変わってた」
「道が変わるわけないだろ! どうせまた迷子になってたんだな、お前!」
“そんなわけねェだろ、どんだけここに住んでいると思ってんだ”
と言いかけて、止めた。
ペローナはわざわざ玄関でゾロを出迎えるような女じゃない。
それなのにここで待っていたということは、何かあったのだろう。
「お前・・・なんでここにいる?」
「はっ、そうだ! 大変なんだ!!」
“ホロホロの実”の能力者であるペローナは、幽体の方であれば宙に浮くことができる。
ふわふわと飛びながらゾロに詰め寄ると、青ざめた顔で二階の方を指さした。
「とんでもねェ客が来てんだよ!!」
「・・・客?」
その瞬間、ゾロの顔色が変わった。
ミホークは人付き合いが良いとは言えない男だ。
世俗から離れるようにしてこのような城に住んでいる事からもそれは伺えるだろう。
だから自分がここに来てから1年、一度として来客があった事などなかった。
だが、ゾロが表情を変えたのは、それが理由ではない。