第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
ドクン・・・ドクン・・・
先ほどから嫌な音をたて続けている心臓。
この感覚は、前にも味わったことがある。
「・・・・・・・・・・・・」
女は無言のまま、ゾロとその三本の刀を一瞥した。
それから自分を取り囲むヒューマンドリルにも目をやる。
「ウキィ・・・」
ゾロですら彼女を前にして動けないのだ。
辛うじて覇気に耐えていたヒヒ達だったが、その視線が向けられた瞬間、戦意を完全に喪失してしまったようだ。
ガラガラと持っていた武器を地面に投げ捨てると、慌てて森の奥へと逃げ去っていく。
「・・・おい、答えろ。おれはお前に質問をしているんだ」
これほどの覇気に包まれながら、一人でシッケアール王国に来るほどの女だ。
只者ではない事は明らか。
すると女はゆっくりと口を開いた。
「いずれ分かる事じゃないかしら。それが神の思し召しならば」
胸元で揺れるロザリオ。
女は氷の薔薇のような笑みを浮かべ、ゾロのすぐ横を通り過ぎた。
そして城の方へ向かって歩いていく。
ゾロの間合い以上に二人の距離が離れると、彼女を守るように張りつめていた覇気がスッと消えていくのを感じた。
「あの女はいったい・・・」
今もドクン、ドクンと脈打つ心臓。
これと同じ感覚を以前にも覚えたことがある。
忘れもしない、それは・・・
“おれはお前に会うために海へ出た!!”
“・・・・・・何を目指す”
“最強”
“哀れなり、弱き者よ”
“おれの野望ゆえ・・・そして親友との約束の為だ”
世界中の剣士の頂点に立つ男と初めて対峙した、あの時の高揚と恐怖だった。