第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
稽古をつける気がないのなら仕方ない。
理由はどうあれ、そのような日はこれまでにも星の数ほどあった。
ゾロはこれ以上頼む事を諦め、三本の刀を持って一人で城の外に出た。
満月だから剣を握る気になれねェ?
何言ってる。
「満月だからこそ、血が騒ぐんじゃねェか」
純粋すぎるが故の凶暴性。
強さを追い求めるがあまり、彼の瞳は猛獣のそれのように光っている。
それにしても、今日は湿気が少ないな。
いつもは立っているだけで肌がじっとりとしてくるのに、乾いた感じがする。
かつて戦争が絶えず、数年前に滅んでしまったというシッケアール王国。
死者の怨念が渦巻く空気が、いつにも増して重く、冷たいような気がした。
「くだらねェ・・・ボサボサしてる暇はねェんだ」
ゾロは、人間のマネをして武器を取るヒヒを探した。
“ヒューマンドリル”はゾロに叩きのめされるたびに学習し、強くなって戻ってくる。
トレーニング相手にはちょうど良かった。
だが今日は珍しく、森に入ってもその姿を見つけられない。
「ったく・・・どいつもこいつもたるんでやがるな」
仕方がない。
ならば、筋力トレーニングでもするか。
適当な岩を見つけ、それを真っ二つに斬ったゾロ。
片方だけでも重さ2トンはあるだろう。
それを左右に広げた腕の上に一つずつ乗せる。
その怪力に驚いたのか、そばに生えていた木の枝にぶら下がっていた数匹のコウモリが、逃げるように飛び去って行った。
昼間だというのに暗い空。
死臭のような匂いが染みついた空気。
「・・・ふぅ・・・」
腕に乗せた岩の重みが、筋肉の繊維の一本一本に響き始めた頃。
ザワザワ・・・
急に森全体が不穏な動きを見せ始める。
見上げれば、カラスの群れが円を描くように同じところを飛んでいた。
「なんだ・・・?」
何かを警戒しているのか?
ゾロが岩を下ろした途端、それまで姿を隠していたヒューマンドリル達が一斉に飛び出してきた。