第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
モンキー・D・ルフィの「16点鐘」から1年。
海軍と海賊の力の均衡が崩れた世界は荒れていた。
白ひげ海賊団の残党と黒ひげ海賊団による「落とし前戦争」。
赤犬と青雉による一騎打ち。
名だたる海賊団が四皇の傘下に入るなど、連日のように衝撃的な事件が新聞を賑わせている。
しかしそれも、来たるべく集結の時に備えて修行を積む麦わらの海賊団には関係のないことだった。
“3D2Y”
世界から隔離されたシッケアール王国跡地で、ミホークから稽古をつけてもらう日々のゾロ。
それは、いつもより湿気が少なく、強い風が吹く日のことだった。
「今日は一人で鍛錬しろ」
前日負った傷の上に巻いていた包帯を外し、生卵を5つほど流し込んでからミホークを訪ねてきたゾロに、部屋の主はロイヤルチェアに座ったまま気だるそうにそう言った。
「なんでだよ!」
「気乗りせん」
気乗りしない?
そんな理由で稽古をつけてくれないのは納得がいかない。
最近、ようやく覇気を自在に操れるようになってきたから、もっとミホークのアドバイスが欲しい。
仲間との約束の日まであと1年を切っている、時間はあるようで無いんだ。
「そんなの理由になんねェぞ! こっちは頭を下げてるんだ」
「それのどこが頭を下げているというのだ?」
「・・・・・・・・・・・・」
同じ城で暮らしてみて分かったことだが、ミホークは気分屋なところがある。
気まぐれでゾロと手合わせをする日もあれば、このように稽古どころか門前払いをする日もあった。
だが、今日のミホークはどこか違う。
「今宵は満月・・・剣を握る気分ではない」
そのような言い方をするのは初めての事だった。
それだけではない。
ミホークは深紅のセンタークロスカーテンの方に顔を向け、外を見つめている。
その瞳にいつもの鋭さが無いような気がした。
「まだ昼前だぜ? 満月にはちと早いんじゃねェのか?」
「・・・・・・・・・・・・」
“鷹の目”には今、いったい何が映っているのだろう。
ミホークはゾロの言葉に何も返そうとせず、ただワインを口に含むだけだった。